ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して国際社会の怒りが渦巻く中、各国の外相や特使が相次いでニューデリーを訪問している。ロシアへの制裁などに慎重な姿勢を示しているインド政府の立ち位置をはっきりさせるためだ。
そのため、米政府はアメとムチを駆使していると米紙ニューヨーク・タイムズは指摘する。ほとんどの武器をロシアから長年購入してきたインドに、米国は防衛の協力拡大を提示すると同時に、インドを日米豪印4か国による戦略的な枠組み「クアッド」の中で〝ふらついたメンバー〟と批判した。
そんな中、日本の岸田首相は3月19日、ニューデリーを訪れインドのモディ首相と会談。ウクライナ情勢について、国際法に基づいて紛争の平和的解決を求める必要があるとの認識で一致した。岸田氏はまた、日本が今後5年間で官民合わせて5兆円をインドに投資する目標を掲げると表明した。
続いてオーストラリアのモリソン首相も21日、モディ首相とオンライン形式で会談。両首脳は2020年6月の前回会談で発表した「包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」を軸に、両国関係をさらに深めていくことを再確認。経済やエネルギー、安全保障など幅広い分野での協力をうたった共同声明を発表した。
また、イスラエルのベネット首相も近くニューデリーを公式訪問することを発表している。
それでもインドは3月24日、国連総会で採択されたウクライナの人道危機が「ロシアの敵対行為の結果」と明記した決議に賛成せず、棄権票を投じた。インドは同月2日に国連総会特別会合が採択したロシア非難決議でも棄権していた。
そもそもインドがウクライナ侵攻をめぐり、ロシアを真っ向から非難しない理由は、1971年のインド・パキスタン戦争にさかのぼる。パキスタンに侵攻したインド軍に対し、国連安保理は即時撤退を求めたが、当時のソ連が安保理の常任理事国として拒否権を発動し、インド側に立ってくれた歴史があるのだ。そのため、91年にソ連が崩壊した後も印露関係は良好に続き、ロシア製の武器を購入し続けている。
一方、長期にわたる国境問題で対立してきた中国とも、ウクライナ情勢を機に急接近している。3月25日には中国の王毅(おうき)外相がインドを訪問し、ジャイシャンカル外相らと会談した。両国はカシミール地方の国境画定問題を抱えるが、中国は米国により「ロシア寄り」として警戒される中で中立の立場を取るインドとの関係改善を図っている。