注目ポイント
アメリカ・日本・中国の3か国間の競争の中で、いかに経済状況に左右されることなく競合他社に勝つか、それを握るのがサプライチェーンの強化とされ、各国とも力を入れている。台湾は、その経済構造と地理的な観点から、自由貿易を重視する日米と同じ立場にあるようだ。第一段階として貿易摩擦、第二段階がサプライチェーンの再編成であり、この先は誰が科学技術競争の中で生き残れるか、だ。
日本の「半導体復興」への野望と歴史からの教訓
グローバルファウンドリリーダーであるTSMCによるアメリカでの工場設立は、アメリカのサプライチェーン構築において最も重要なことである。アメリカはTSMCだけでなく、その他の台湾・韓国の半導体メーカーの誘致を積極的に行っている。また、アメリカは半導体サミットを主催し、国内の半導体製造を積極的に促進するため520億ドルをかけ≪CHIPS法≫を推進すると決めた。これは「中国製造2025」に影響を受けたと見られ、貿易戦争と技術戦争に徹底的に勝つために、アメリカ政府と企業は先進科学への多額の投資を惜しまなかった。国際的な生産拠点が中国に集中している現状を変えたい狙いだ。世界中の親中派の人々が集まっても、アメリカの両党が中国を敵視することを覆すことは出来ないだろう。
TSMCは最先端チップの生産をほぼ独占している。そのためアメリカの最新鋭兵器や、量子コンピューター、人工知能、モノのインターネット化の開発はTSMCなしでは実現できない。アメリカは国家安全保障上の需要からくる最新兵器の供給のみ行っているが、TSMCをアメリカに誘致する上で他国の戦争や自然災害からくる米国サプライチェーンへの影響リスクを減らすことは必要不可欠だった。
「国家安全保障」を理由に何かを決めるのは新しい概念ではなく、アメリカはこれまでも政治や経済において方向性を決める際に念頭に置いてきた。この政策理論は、1980~2000年代の日米間の貿易摩擦から始まり、現在は中国が主導する「汚れた」サプライチェーンに対処する目的で用いられている。
半導体産業における日米の対立は30年にも及び、やがてアメリカの政治的圧力、デバイス利用者市場の変化、韓国からの追い上げ等さまざまな要因が重なり、日本の半導体産業は衰退していったのだ。つまり、中国政府と親中派の人々がどんなにロビー活動を行っても、アメリカが貿易とサプライチェーンを変えると決断してしまったら、何も元に戻すことは出来ないのだ。先の日米間の貿易摩擦は国際的な分業制度を形づくったものであり、日本の半導体産業の崩壊の始まりでもあった。現在の米中貿易戦争は、冷戦時代の中で新たなサプライチェーンが形成されるきっかけであり、日本が自国の半導体産業の「返り咲き」を望むならば、このチャンスを逃してはならない。
隠しきれない台湾と日本の半導体提携戦略の重要性
たとえ軍事的理由であれ経済的理由であれ、インド太平洋地域の自由と繁栄を維持することは日本にとって大事なことである。今年11月末、安倍晋三元首相が台湾の民間シンクタンクである国家政策研究所のビデオインタビューでこう答えた。中国共産党の脅威について、経済と軍事費用は毎年約7%の増加が見られると指摘。さらに習近平国家主席に対し「台湾の有事」は「日本の有事」と同等であること、ひいては「日米同盟の有事」に相当するということを再度アピールした。