注目ポイント
アメリカ・日本・中国の3か国間の競争の中で、いかに経済状況に左右されることなく競合他社に勝つか、それを握るのがサプライチェーンの強化とされ、各国とも力を入れている。台湾は、その経済構造と地理的な観点から、自由貿易を重視する日米と同じ立場にあるようだ。第一段階として貿易摩擦、第二段階がサプライチェーンの再編成であり、この先は誰が科学技術競争の中で生き残れるか、だ。
TSMCの日本工場において大切なことはただ一つ、市場の需要を満たすことである。日本の主要顧客であるソニーは、今年、28nm規模でイメージシグナルプロセッサ(ISP)を製造することを決定し、更にCMOSイメージセンサー(CIS)をTSMCに製造してほしいと希望している。CIS技術はソニー独自の企業秘密とされてきたもので、日本国内に留まっていた。しかしその後、半導体製造において後れをとったために28nm以下の領域に進出することが難しくなった。その上、韓国のサムスングループの追い上げも重なり、ソニーはTSMCとの提携に踏み切ることで生産ニーズに応えつつ、日本国外への技術の流出を防いだのだ。
TSMCにとっても、ソニーのセンサーやSIP技術を学ぶいい機会であり、長い目で見ると半導体製造大国の台湾と、半導体材料生産大国である日本が力を合わせることは戦略産業の活性化につながるだろう。TSMC熊本工場は目をひくが、忘れてならないのはTSMCがつくばの材料開発研究センターの設立を優先させているということであり、遡ると2019年には東京大学との提携でシステムデザイン研究センターを設立していることだ。この投資事例はTSMCとソニーのビジネスの布石になるだけではなく、衰退した日本の半導体産業を盛り返す大きな転機になる。そのため日本政府は国家予算を利用し、TSMCの工場建設におよそ半分の補助金を出す計画だ。28nmの生産ラインが軌道に乗れば、半導体産業に付随する業界を活性化させるだけでなく、本土の電子産業の供給も強化させることが出来る。
「クリーン」で「ハイリターン」なサプライチェーンの世界的な需要
TSMCの日本工場設立は、ビジネス上の提携だけではなく、背景には深い政治問題が絡んでいる。米中貿易戦争の開始後、多くの中国企業が「不透明」なサプライチェーンのリストに入っていた。それらの企業はアメリカとビジネスをしたいがために、アメリカの貿易ルール、ギリギリのところだけ、気を付けているような感じだった。
過去20年の中で、中国は台湾の半導体産業からの投資を利用し、密かに手を抜きつつ技術だけを盗むという手法により、大きな成功を収めてきた。「中国製造2025」プロジェクトからも分かるように、中国は低コストの生産拠点から製造大国へと飛躍すると掲げていた。しかし、中国の技術の盗用や軍事行動がますます過激になったことで、日本・アメリカ・台湾も大規模なサプライチェーンの改革に移行している。もともと世界的な分業制度からの恩恵を受けていた多くの国の企業は、貿易戦争と新型コロナウイルスの流行によって生じた世界的なチップ不足に直面し、半導体の供給不足に対する不安が深刻になった。