2021-12-21 テクノロジー

TSMCの1兆円プロジェクトに新展開ー「半導体業界で 返り咲く」日本の野望と歴史からの教訓 (短期連載・上)

© REUTERS/TPG Images

注目ポイント

アメリカ・日本・中国の3か国間の競争の中で、いかに経済状況に左右されることなく競合他社に勝つか、それを握るのがサプライチェーンの強化とされ、各国とも力を入れている。台湾は、その経済構造と地理的な観点から、自由貿易を重視する日米と同じ立場にあるようだ。第一段階として貿易摩擦、第二段階がサプライチェーンの再編成であり、この先は誰が科学技術競争の中で生き残れるか、だ。

もし、今日の世界が「あるモノ」を巡って覇権争いをするならば、そのあるモノとは間違いなく「半導体」である。最先端の軍事技術であれ、工業製品の貿易であれ、気候変動への対策であれ(パワー半導体はグリーンイノベーションのポイントとなり、電気自動車は主要国の一つの指標となっている)どの分野においても半導体は必要不可欠な存在なのだ。


中国の半導体生産がアメリカから大打撃を受けたことで、アメリカ・日本・インド・ヨーロッパでは国際的なサプライチェーンを強化し、未来のために独自の半導体戦略を練っている。世界中が新型コロナウイルスの影響を受けた今、生産システムの再構築のフェーズに入っている。戦後作り上げられた世界的な分業制度が、ここ数年間の米中貿易戦争により崩されてしまった。技術戦争は、半導体製造を巡る「軍備拡張競争」に入ったと言える。


一兆円の投資が日本の半導体戦略の新たな局面を生み出す


台湾は世界中から望まれる優れた半導体製造技術を持っているために、冷戦終結以降、世界中の巨大な政治組織の中でも中核のポジションを保っている。世界中のチップ需要を満たすために今年、台湾の半導体産業は生産ラインをほぼフルパワーで稼働した。そのファウンドリをリードしているTSMCは当然忙しい。なぜなら、主要大国がTSMCを自国のサプライチェーンの中に組み込みたいと、ラブコールが相次いだからだ。


アメリカ・アリゾナ州で計画されているTSMCの5ナノメートル(nm)12インチウェハの工場建設は、今年正式に開始され、日本での開発プロジェクトも急速に進んでいる。TSMCは2月、茨城県つくば市に材料研究開発センターを設立すると発表。翌3月には完全子会社の「TSMC Japan 3DIC R&D Center」 を設立し、同10月に九州熊本市に22nmと28nmの12インチウェハの工場を建設すると発表。11月には、ソニーの子会社であるソニーセミコンダクターソリューションズコーポレーション(以下「SSS」)と共同し、半導体の製造受託サービスを提供する子会社「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing 株式会社」 (以下「JASM」)を設立する構想を発表した。


推定によると、TSMCの日本への投資は1兆円に達し、日本政府は資金のおよそ半分を助成する予定だ。政府は、6月に発表した「半導体戦略」において、半導体企業に補助金を提供する方針を確立させた。そして同時に、日本政府は5G技術開発の改正も推進しており、TSMCはこの改正の恩恵を受ける最初の企業となる見通しだ。資金面では、今年の12月に2021年度の補正予算を通じて日本の半導体企業に6000億円を追加で補助することが決定し、そのうち約4000億円がTSMCの工場建設に助成されると見込まれている。

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