2022-03-30 連載コラム

月イチ連載「山本一郎の#台湾の件」第1回:台湾に感じる親しみとウクライナ侵攻が孕む他人事とは言えない問題

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台湾人の級友「かあくん」と幸せになった留学生の話

「私はなぜ台湾が好きなんだろう」と思い返すことがあります。

原体験で言えば、二つあり、まず、学生時代に台北に足を向けて生の台湾を見たこと。

もうひとつが、日本にやってきた台湾人の留学生たちをお世話した経験を通じてお互い共通する何かを感じたことじゃないかと思います。理屈ではなく、情感として、台湾の人や暮らしを身近に感じることで、想像がつくからこそ台湾が好きなのではなかろうか、と。

33年前、私の通っている高校に台湾から来ていた級友「かあくん」がおりました。馬鹿なこともたくさんやり、仲良くしている中で「お。かあくんは台湾にご家族がおるのか。それなら一度、みんなで訪問してみようか」と彼の家族がいる台北の実家を訪問すべく、悪友4人とつるんで5人で学生旅行をしたわけですよ。

当時は本当の意味で日本がバブル経済に酔いしれ乱痴気騒ぎをしている真っただ中。私も親父が経営する化学会社では貿易業務をやっていて海外に行ったり来たりする経験もあったんですが、家族旅行じみた仕事の随伴でも堅苦しい交換留学でもない、友人との海外旅行でぶらっと台北に足を向けたのは良い経験でした。

台北の空港を降り、少し排ガスの匂いのする高速道路の高架の上から、夕暮れ時の穏やかな台北の街並みを遠くに見晴るかし、市街地に入ると日本・東京や香港の街並みとはまた違った、当時の台湾らしい煩雑で、それでいて情緒のある街並みはむしろどことなく懐かしさすら感じました。まだ高校生だったのにね。

ごちゃごちゃした中に秩序があり、その雑然とした活気が台湾の人たちの暮らしと一体となっている。最初に感じた台北の感覚は、いまでもよく覚えています。そのときも、路上にあるお店や屋台の立ち並ぶ地域にかあくんと日本人一行はずんずん入っていったりもしたのですが、台湾語がまるで分からない私らが呆然とする中でかあくんが露天商のおっちゃんと「値引き交渉」を流暢な言葉遣いでしています。現地で生まれ育ったのだから当たり前と言えば当たり前だ。ただ、いままでは、日本から一時的に海外に行って現地の人と交流することはあっても、普段の暮らしでの買い物で値切るという経験はあまりありませんでした。机を並べて学んでいる台湾からの級友が、平然と「明らかに自分にはできないことを平然としている」ことに強くショックを受けたんですよ。

この地から日本に学びに来たかあくんが日本のポップスを聴いて松任谷由実の新曲でよく盛り上がり、50歳になろうかという心技体揃った中年になってなおSNSで交流しお互いの近況の話を交わせるのはとても幸せなことです。

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