2022-03-11 地方創生

オンデマンド交通は地域社会の救世主となり得るか:MaaSが導く日本の未来(第1編)

© TOHOKU MaaS

近年の交通分野において、高齢化および人口の都市密集化が進む日本社会の実情として、大都市圏においては交通機関および道路の混雑や環境問題、また、過疎地域では公共交通サービスの不足とマイカー依存型の生活環境に起因する様々な問題が山積みとなっている。

そこで本サイトでは3編にわたり、地域住民や個人のニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外のオンデマンド交通などの移動手段を最適に組み合わせて提供するサービス「MaaS(マース): サービスとしてのモビリティ」を取り上げ、日本の未来像を展望する。第1編となる本稿では、日本の鉄道業界をリードするJR東日本が主導となって展開する東北地方の一関エリア及び岩手県紫波町が取り組むそれぞれのモデルケースを、一日体験取材にもとづきレポートする。

MaaSの舞台としての東北地方

日本の鉄道を象徴する新幹線網も日本全土に拡大され、主要都市間の移動は大変スムーズになり移動時間も短縮された。しかしその反面では、新幹線で到着した後、その先の交通手段に頭を悩ますというのが、旅行者にとっても、また地域で暮らす人々にとっても共通の課題である。

その意味において、マイカー以外の交通手段が不足し、急速な高齢化や過疎化といった複合的な課題を抱える東北地方は、一方で豊富な観光資源や文化の宝庫でもあるため、まさにMaaSは、その導入によって交通の利便性や生活環境の向上、さらには地域そのものの活性化も促進するサービスとして大いに期待が寄せられている。

JR東日本は、これらの課題をいち早く見据え、2年間の実証実験を経て、東北エリアの6県で「TOHOKU MaaS」を展開している。これには、ルート検索を含む旅行前の情報収集から交通機関のチケットやバスの予約、レジャー施設への入場券等も含まれており、さらにはお土産購入やグルメ共通のクーポンも含め、全てオンライン決済が可能となっている。さらには、各市町村や民間が提供する様々なMaaS関連サービスを組み合わせることによって、多種多様かつ効率的な移動プランを立てることができるのである。

いざ体験ツアーへ!

最初に目指す岩手県紫波町は、岩手県のほぼ中央に位置し、人口33,000人ほどの典型的な地方都市である。まず新幹線で盛岡駅に到着後は、JR普通列車に乗り換え紫波中央駅へ。この乗り換え移動の間に、早速、紫波町が導入しているオンデマンド交通サービス「しわまる号」を予約。

紫波中央駅に到着すると、専用ワゴンの「しわまる号」が既にスタンバイしてくれていて、まずは地元で人気の観光スポット城山公園へ。通常であればタクシーを利用するところであるが、料金は一回乗車につき300〜500円。誰でもオンデマンドで利用できるシステムである。

<しわまる号予約画面>
<かわいいワゴンタイプの車両が迎えてくれます>

この城山公園は、知る人ぞ知る隠れた桜の名所。季節になると満開の桜とともに北上川をはじめとした大自然の絶景が楽しめる。四季折々の趣を求めて何度でも訪れたくなるスポットである。

<城山公園の桜満開盛況>

城山公園を散策して自然と戯れた後は、ふたたび「しわまる号」を利用して、地元で愛される「藤屋食堂」でランチタイム。定番人気の麺類や定食に加え、イチゴたっぷりの杏仁豆腐やフルーツサンドイッチも好評の逸品。親切な店主さんとの出会いも、オンデマンド交通だからこその旅のアレンジといえる。

© 藤屋食堂

<藤屋食堂で大人気なフルーツサンド>

紫波町主導で導入されたこのオンデマンド交通サービスは、日本国内においても非常に先進的な取り組みといえる。旅行者にとっても大変ありがたいサービスであるが、何よりも大きな発見は、地元の人々の日常の足として既に定着していたことである。町内であれば乗降場所を自由に設定でき、買い物、病院、役所への移動など、特に高齢者にとっての必要不可欠なサービスとして機能しており、さらには、地域の人々の交流の場として、ハツラツとしたたくさんの笑顔に出会うことができた。

オンデマンド交通を利用して紫波町でのハーフデイトリップを楽しんだ後は、ふたたび「しわまる号」で紫波中央駅に戻り、次の目的地の一関へと向かう。

観る。巡る。楽しむ。

JR一ノ関駅に向かう道中は、「TOHOKU MaaS」のウェブページで、エリアのスポット情報をチェックしながら、オンデマンド交通予約サービス「よぶのる一関」で到着後の移動手段を確保。乗車1回500円でエリア内どこでも乗降可能な乗り合い専用のワゴン車に乗り、四季を通じて美しい景観が楽しめる厳美渓を散策。そして地元名物の醤油団子を堪能した後は、この日の最終目的地となる「厳美渓温泉いつくし園」に到着。スケジュールの都合で、立ち寄りのみの温泉利用であったが、事前に購入した500円の「TOHOKU MaaSチケット」で受付をすませ、昭和の雰囲気がただよう木造のインテリアや、野趣にあふれた豊かな温泉を存分に楽しむことができた。

<よぶのる一関の乗車写真>
<厳美渓の風景と醤油団子写真>
<TOH​​OKU MaaS Ticket購入画面>

温かい温泉でリフレッシュしたあとは、ふたたび「よぶのる一関」を予約し、一ノ関駅へと向かう。途中、地元の酒蔵である「世嬉の一酒造」にも立ち寄ることができ、地酒と地ビールを土産に新幹線で充実の帰路に着いた。

<世嬉の一酒造の写真>

今回の体験取材を通じて見えてきたこと。

東北の各地域にオンデマンド交通網を整備することは、MaaSサービス導入の第一のハイライトであるとも言える。実際に体験してみると、事前予約することによって、待ち時間を短縮でき、スムーズかつ効率的な現地移動ができただけではなく、通常では簡単に足を伸ばすことのできないスポットへも手軽に訪れることができた。

一見無謀とも思われるスケジュールでの日帰り体験ツアーであったが、十分以上に満喫できる有意義な旅の一日にできたのも、MaaSという取り組みの恩恵であると感謝。

今回体験したのは、岩手県内でのサービスモデルであるが、JR東日本によると、TOHOKU MaaSでは秋田県内でも新たなチャレンジを計画している他、西武グループとの連携による「回遊軽井沢」という地域・観光型MaaSも、3月までの期間限定でありながら、幅広い世代でかなりの盛り上がりを見せているとのこと。

MaaSを導入する目的や方法論は地域なりの特徴があるが、今回の岩手での取材を通じて、MaaSという取り組みが、今の日本社会で心豊かに生きるための一つの希望となっているようにも感じられた。

そして今後、日本各地で展開されるMaaSが、超高齢化社会に生きる我々の一つの燈明となり、未来へと続く道のりを力強く照らし続けてほしいと願いつつ、次編ではMaaS発展の経緯や日本の現状などについて取り上げていく。

 

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