近年の交通分野において、高齢化および人口の都市密集化が進む日本社会の実情として、大都市圏においては交通機関および道路の混雑や環境問題、また、過疎地域では公共交通サービスの不足とマイカー依存型の生活環境に起因する様々な問題が山積みとなっている。
そこで本サイトでは3編にわたり、地域住民や個人のニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外のオンデマンド交通などの移動手段を最適に組み合わせて提供するサービス「MaaS(マース): サービスとしてのモビリティ」を取り上げ、日本の未来像を展望する。第1編となる本稿では、日本の鉄道業界をリードするJR東日本が主導となって展開する東北地方の一関エリア及び岩手県紫波町が取り組むそれぞれのモデルケースを、一日体験取材にもとづきレポートする。
MaaSの舞台としての東北地方
日本の鉄道を象徴する新幹線網も日本全土に拡大され、主要都市間の移動は大変スムーズになり移動時間も短縮された。しかしその反面では、新幹線で到着した後、その先の交通手段に頭を悩ますというのが、旅行者にとっても、また地域で暮らす人々にとっても共通の課題である。
その意味において、マイカー以外の交通手段が不足し、急速な高齢化や過疎化といった複合的な課題を抱える東北地方は、一方で豊富な観光資源や文化の宝庫でもあるため、まさにMaaSは、その導入によって交通の利便性や生活環境の向上、さらには地域そのものの活性化も促進するサービスとして大いに期待が寄せられている。
JR東日本は、これらの課題をいち早く見据え、2年間の実証実験を経て、東北エリアの6県で「TOHOKU MaaS」を展開している。これには、ルート検索を含む旅行前の情報収集から交通機関のチケットやバスの予約、レジャー施設への入場券等も含まれており、さらにはお土産購入やグルメ共通のクーポンも含め、全てオンライン決済が可能となっている。さらには、各市町村や民間が提供する様々なMaaS関連サービスを組み合わせることによって、多種多様かつ効率的な移動プランを立てることができるのである。
いざ体験ツアーへ!
最初に目指す岩手県紫波町は、岩手県のほぼ中央に位置し、人口33,000人ほどの典型的な地方都市である。まず新幹線で盛岡駅に到着後は、JR普通列車に乗り換え紫波中央駅へ。この乗り換え移動の間に、早速、紫波町が導入しているオンデマンド交通サービス「しわまる号」を予約。
紫波中央駅に到着すると、専用ワゴンの「しわまる号」が既にスタンバイしてくれていて、まずは地元で人気の観光スポット城山公園へ。通常であればタクシーを利用するところであるが、料金は一回乗車につき300〜500円。誰でもオンデマンドで利用できるシステムである。

