9日に投開票された韓国大統領選で、保守系最大野党「国民の力」候補の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長(61)が史上まれにみる接戦の末、現政権の後継候補を破り当選した。5年ぶりに左派から保守への政権交代となったが、前政権が残した〝負の遺産〟の清算という大きな課題が待ち受けている。
同国では新型コロナウイルスがいまだピークアウトせず、前日は1日の新規感染者が32万人以上を記録。各地の投票所では陽性者専用の時間帯を設けるなど、コロナ禍という前代未聞の大統領選挙にもかかわらず、投票率は77・1%まで伸び、有権者の関心の高さを示した。
尹氏は10日未明、当確後の記者会見で、「私と国民の力の勝利というよりは、偉大な国民の勝利」とした上で、「選挙運動をして多くのことを学んだ。国のリーダーになるため必要なものは何なのか、国民の声をどう傾聴すべきかなどを学んだ」と述べた。
一方、激戦の末に敗れた革新系与党「共に民主党」候補、李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)は、「最善を尽くしたが、期待に応えられなかった」として、「全ては私の力不足のせいだ。皆さんの敗北でも民主党の敗北でもない。全ての責任は私にある」と敗北を認めた。
韓国・聯合ニュースは尹氏について、「検事総長として現政権と対立した尹氏は、信念を貫いて不正、腐敗と闘ってきた」と評価。朴槿恵(パク・クネ)政権当時はエリート検事で、情報機関・国家情報院の大統領選挙介入疑惑事件を原則にのっとって捜査したため、同政権で冷遇されたと伝えた。
朴氏の罷免を受けて5年前に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権では異例の人事で検事総長に抜てきされたが、同政権下に対しても捜査のメスを入れたため、文政権とも不和になった。その後、検事総長を退いて大統領選に出馬。聯合ニュースは、「自身のストーリーを『公正と常識の時代の精神』に置き換え、政権交代を実現させようとした」と報じた。
だが、尹氏にとって前途は多難だ。文政権が5年間に〝やらかした〟問題が山積しているのだ。中でも深刻なのは、文氏が市場原理を無視して進めた経済政策が雇用環境を劣悪化させたことだ。
文政権は家計所得増の実現を目指し、無謀にも最低賃金を大幅に引き上げたことで、中小企業を中心に企業の経営体力が低下し、雇用が減少。新規採用を抑えた結果、15~29歳の若年層の失業率が高止まりするという深刻な社会問題を引き起こした。