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2023-11-19 観光

紳士向け理容の神秘に迫る 台湾理容文化探索  

注目ポイント

蕊(アールイ)が店で見つめてきた喜びや悲しみ 、長年にわたり客との間に培われた思いが描かれている。 『本日公休』の話はさながら台湾の理容室の縮図のようだ。生涯をかけて理容技術を守る職人と、「馴染んだ散髪だもの、理容室を変えはしないよ。髪切りは一生の付き合い」と誠実に応える客。理容室の不思議な魅力に迫る。

文・陳群芳  写真・莊坤儒 翻訳・愛場ふみ

制服姿の理容師、コンセント付きの理容椅子、ブラウン管テレビが、台北紅玫瑰理髪廳にノスタルジックな雰囲気を醸し出す

男性向け理容サービスと言えば、誰もがフルコースを享受できる。靴磨き、タオルやお茶の提供、理髪、爪の手入れ、耳掃除、髭剃り、顔のケアといった所で、頭のてっぺんから足のつま先まで誰かにケアしてもらうと想像しただけで、何とも光栄な気分になる。

 

黄金の時代にタイムスリップ

台北の長沙街にある台北紅玫瑰理髪廳(台北紅バラ理髪室、以下「紅玫瑰」)に足を踏み入れると、まるでタイムマシンに乗ったかのような気分になる。コンセントと灰皿が付いたレトロな理容椅子が2列に並び、座席の前には小型のブラウン管テレビが置かれている。リアルタイムのニュースを放送していても、映像はどことなく温かみのある曇った質感で、ノスタルジックな味わいを醸し出している。

取材当日の午後、そこにいたのは幅広い年齢層の客だった。馴染みの客は、自分の担当理容師に一声かけただけで席に案内され、理容師から熱々のタオルを手渡されて、ひとしきりおしゃべりをすると、一息ついて理容師に身を委ねる。

紅玫瑰でただ一人の女性スタッフ、黄秀華さんは、自らを男性理容師という花に添えられた緑の葉のようと笑う。20年間この店で客の爪手入れとパーマサービスを一手に担ってきた黄さんが、ヤスリを手に取るとその姿はまるでバイオリニストのようで、爪の手入れをすれば交響曲の調べが流れてくるようだ。紅玫瑰のスタッフたちは、白衣に身を包み、クシやハサミ、電動バリカンを繰り出し、丹念な手つきで散髪に専念している。室内に漂うパーマ液のにおい、チョキチョキというハサミの音、ゴーゴーという昔ながらのドライヤーの音、これらが混ざり合う平穏な時の流れが心地良い。

過ぎ去りし日の流行の象徴である台北紅玫瑰理髪廳。幾度かの移転を経ても、なお顧客にとことん愛される

 

流行りを取り入れながら

紅玫瑰の理容師の平均年齢は70歳を超え、みな若い見習い時代から働き続けている。理容師らの話を聞いていると、3年4カ月の見習い期間には、床掃除、タオルの洗濯、トイレ掃除など雑用全般を、てきぱきこなさなければならなかったという。昔は忙しく、じっくり教えてもらう暇もなかったので、弟子たちは仕事をしながら理容師たちの技を観察した。理容技術は経験の積み重ねの中で培われてきたものなのだ。

百戦錬磨の理容師たちは、山本五十六に由来するという脇を刈り上げる角刈りに似た髪型「山本頭」も、リーゼントやポマードもお手のものだ。そんな理容師たちは、外国人が散髪に来た思い出を誇らしげに語ってくれた。数年前に、フランスのYouTuberのチャンネル「Bonjour Louis!我是路易」(ボンジュール・ルイ! ルイです)と「Ku's dream酷的夢」(Kuの夢)がいずれも紅玫瑰での体験を動画にして公開したのだ。職人たちの手にかかり、外国人である彼らの特徴が引き立つ似合いの髪型となったほか、外国人には驚きの爪の手入れや髭剃りサービスも、多くの反響を呼んだ。インターネットの普及により、多くの外国人や若者が同店に足を運ぶようになっている。

注意深くロッドに客の髪を巻きコールドパーマをかける黄秀華さん。続く理容師の散髪で、その客に合うスタイルの出来上がりだ
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