注目ポイント
来年1月13日に投開票される台湾の総統選立候補者届け出が間近に迫る中、最大野党の中国国民党(国民党)と第3勢力の台湾民衆党(民衆党)は11月15日、候補を一本化することで基本合意した。世論調査の結果を専門家が分析し、18日に統一候補を決定する。郭台銘の動向がまだ不明だがすでに重要性はなく,選挙戦は与党頼清徳と野党統一候補の一騎打ちの構図となる。野党陣営が割れて与党に有利であった構図から一変し,情勢は非常に流動的になった。
投票まであと2か月を切った台湾の総統選情勢が激変した。
今月20~24日の立候補登録の直前に野党候補一本化が突如実現した。郭台銘氏の動向がまだ不明だがすでに重要性はなく,選挙戦は与党頼清徳と野党統一候補の一騎打ちの構図となる。野党陣営が割れて与党に有利であった構図から一変し,情勢は非常に流動的になった。この大どんでん返しのプロセスを整理し,そこから浮かび上がる疑問点を提示したい。

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時間切れになっていた一本化交渉
野党の一本化交渉はどちらが「正」どちらが「副」になるかで折り合いがつかず暗礁に乗り上げ,11月初旬の時点で時間切れになっていた。選挙戦は与党に有利な構図になっていた。
ところが11月10日に馬英九前総統が突然,野党両陣営に対し「世論調査のみで候補者を決める」という提案を行なった。これは柯文哲氏の主張に沿った提案で,実際,柯文哲・民衆党は即座に歓迎を表明,国民党内からもそれに賛同する声が相次いだ。これは国民党内の足並みの乱れを印象づける効果があり,侯友宜陣営には大きな打撃になったと見られた。

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国民党の朱立倫主席は「世論調査には候補者の支持だけでなく,政党の支持も加える。これは絶対に譲れない」と主張し,馬英九提案とのズレが表面化した。一方,柯文哲陣営は政党支持を入れることに強く反対していた。このため,今回も交渉は物別れになると思われた。これが馬提案の2日後の11月12日の情勢である。
ところが,台湾メディア「鏡週刊」の報道によると,柯文哲氏は13日の幹部会議で突然弱気になり,幕僚らは柯文哲が「無条件降伏」をするのではないかと心配になり,核心幕僚らがほぼ一致して戦い抜くことを柯文哲氏に求めたという。
※「48小時瘋狂『靈魂拷問』 揭柯文哲上藍白談判桌心證」『鏡週刊』2023年11月15日
https://www.mirrormedia.mg/story/20231115inv010
馬英九氏が主導した野党交渉
11月15日,朱立倫国民党主席,侯友宜同党候補,柯文哲民衆党主席兼候補の3者会議に馬英九前総統が立会人として参加し,協議の結果,野党候補一本化の合意が発表された。
しかし,候補の決め方は,柯文哲氏が主張していた「公正な世論調査の実施」とは異なり,各調査会社が発表している数字を集めて正副の候補を決めるという極めてあいまいなやり方になった。
合意書では,双方から1人ずつ,立会人の馬英九氏も1人,計3人の世論調査の専門家を推薦し,その3人が勝ち負けを判定するとなっている。判定の材料となるのは11月7日から17日の間に発表された既存の世論調査結果である。つまり既発表の世論調査をいくつか取り上げ,その勝ち数の多い方が総統候補になるという決め方である。どの世論調査を採用するかは決定的に重要だが,この3人の専門家が決めるようだ。馬英九推薦の専門家は国民党推薦の専門家に同調すると考えられ,この決め方は柯文哲氏に不利だ。
