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2023-11-14 政治・国際

中国「最弱総理」李克強氏の死で垣間見えた「却って高まる存在感」の皮肉【大熊雄一郎の眼力】

© Reuters ラオスの中国大使館職員らと会談した李克強首相(当時)=2016年9月11日

注目ポイント

中国で急逝した李克強前首相を追悼し、その功績を再評価する動きが出ている。改革派だった李氏を懐かしむ背景には、毛沢東時代に回帰するかのように改革を後退させ、景気低迷をもたらした現政権への不満もある。李氏は現役時代、習近平国家主席の「1強」体制の確立によって権限を奪われ、「史上最弱の総理」ともやゆされた。皮肉にも死去によって存在感を高めており、習指導部は追悼文の公開や集会を制限するなどして反政府行動につながらないよう神経をとがらせている。

追悼文

中国メディア「財新」は今月6日、「改革へのブレークスルー(打開)が急務だ」と題する社説を公開した。2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回総会(3中総会)で経済体制改革の加速に向けて打ち出した政策綱領を改めて評価する内容だ。

社説が公開されると、中国の交流サイト(SNS)は騒然とした。この政策綱領は当時、首相に就任したばかりの李克強氏率いる国務院(政府)が満を持してまとめた政策だったためだ。

政策綱領は、金融業の対外開放や行政機能のスリム化、民間企業の活性化措置などを通じて市場メカニズムを効率的に機能させる目標を掲げた。公開時は「総花的」との声もあったが、北京の改革派知識人は「これが全て実現すれば中国の問題はだいたい解決するだろう」と唸った。

ところがその後、習氏への権力集中に伴って、李氏の影響力は低下。国有企業改革は進まず、当局の市場への介入はむしろ強まった。経済改革は停滞し、野心的な政策綱領はかけ声倒れとなった。

財新の社説は政策綱領の重要性を改めて強調した上で、現状をこう嘆いた。「10年前に比べ、中国経済は下押し圧力に直面し、(労働人口の増加による)人口ボーナス期は急速に終わり、外部環境は悪化。地方財政の逼迫、不動産や地方債務がもたらす金融リスクも表面化している」。その上で政策綱領が実現していれば「現在の経済社会の多くの困難は避けられるはずだった」と指摘した。

さらに「長江と黄河が逆流することはない」と明記した。これは李氏が引退直前の記者会見で改革・開放を貫徹する決意を示した言葉だ。社説は李氏を名指ししなかったものの、構造改革の志半ばで逝去した前首相へのはなむけであることは明らかだった。

SNSでは社説について「よくぞ言った」と称賛する投稿が相次いだが、それらの書き込みは間もなくみられなくなった。政権批判のにおいを感じ取った当局が規制したとみられる。

 

鄧小平路線の継承者

建国の指導者毛沢東が1976年に死去すると、毛が発動し、社会を大混乱に陥れた「文化大革命」はようやく収束に向かった。実権を握った鄧小平氏は改革・開放路線を主導。極端な権力集中が個人独裁をもたらした反省から「政治体制改革なくして、経済体制改革の貫徹は難しい。党と政府は分離しなければならない」と語った。

© Imagine China

かつての中国の最高指導者、鄧小平氏の看板=2011年5月2日、中国南部広東省深圳市

歴代の首相は鄧路線を忠実に守ってきた。李氏の前任の首相、温家宝氏も「政治体制改革」の重要性を訴えていた。そのバトンを引き取った李氏は改革・開放路線の正当な継承者だった。李氏が意欲を示した構造改革は氏名にちなんで「リコノミクス」と呼ばれ、内外の期待を集めた。

© REUTERS

全国人民代表大会(全人代)の開会式で演説する温家宝首相 (当時)=2013年3月5日、北京人民大会堂
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