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先週末、フィリピンを訪問した岸田首相は、自衛隊とフィリピン軍部隊の相互往来をスムーズにする「円滑化協定」の交渉開始で合意したと明らかにした。これには両国それぞれの領海でエスカレートする中国の攻撃的な海洋進出をけん制する狙いがある。この動きに中国国営メディアは、「混乱を生み出し、紛争を引き起こしたいという日本政府の願望だ」と伝えた。
3日から2日間の日程でマニラを訪れた岸田首相は、マルコス比大統領と会談。岸田氏は、東シナ海や南シナ海の領海をめぐり、中国との緊張が高まっていることを共通の「深刻な懸念」とし、「力による一方的な現状変更の試みは容認できない」と改めて強調した。
中国を名指ししなかったものの、フィリピンが実効支配するアユンギン礁(中国名・仁愛礁)付近で先月、比船に中国船が衝突した2件の事故を含め、中国の攻撃的な海洋進出に言及したもの。比政府は中国側が意図的に衝突させたと非難し、中国はフィリピン側が警告を無視したと主張。日本政府はフィリピンを支持する姿勢を表明した。
両首脳は、海洋進出を強める中国を念頭に安全保障協力を強化するため、今年4月に創設したばかりの、同志国の軍に防衛装備品などを提供する新たな枠組み「OSA(政府安全保障能力強化支援)」を初めて適用し、沿岸監視レーダーを供与することで合意した。
一方、日本とフィリピンとの関係強化に警戒感を示しているのが中国だ。
中国共産党系のタブロイド紙・環球時報は先週、日本によるフィリピンへ防衛関連装備を供与する動きは、「混乱を生み出し、紛争を引き起こしたいという日本政府の願望の産物」だと批判。日本はフィリピンが「南シナ海をかき回す先兵として行動する」ことを望む一方、フィリピンは「影響力を得るために外部の力に頼る」ことを目的としているとの専門家らの発言を伝えた。
同紙はまた、日本政府が提案したフィリピンに対する安全保障枠組みは、日本の戦後の平和憲法に反しているとも主張した。
米国営放送「ヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)」は、ますます主張を強める中国に対するこうした懸念の高まりが、安全保障上の関係を深めるという日本とフィリピン両政府の決定に大きな役割を果たしたと報じた。
マニラのデラサール大学で国際問題を研究するドン・マクレーン・ギル氏はVOAに、「脅威に対する認識を共有することは、戦略的関係を緊密化するための最も重要な推進力の一つ」と指摘。「日本とフィリピンは秩序の安定という共通認識を持ち、特定の脅威、つまり中国に対する警戒心も共有している」とした。
両国は相互アクセス協定の交渉を行っており、これにより合同軍事演習を含む双方の軍による共同活動が促進されることになりそうだ。日本はすでに英国とオーストラリア、一方のフィリピンはオーストラリアと米国と、それぞれ同様の協定を締結している。