注目ポイント
中国で超富裕層が減少している。米経済誌「フォーブス」によると、世界の億万長者2640人のうち、少なくとも562人は中国人だが、その数は昨年の607人から減じた。大規模投資家への圧力や政治情勢の混乱を受け、巨額の個人資金を国外に移し、自らも海外移住する中国の大富豪が急増している。英紙ガーディアンが伝えた。
中国のエリート層は長い間、個人資産を海外に持ち出す方法を模索してきた。公式には、個人が国外に送金できるのは年間5万ドル(約756万円)のみ。だがガーディアン紙によると、実際、富裕層は資本規制が適用されない香港で両替をしたり、海外の事業に投資するなど、あの手この手で資金を国外に移しているという。
そんな資金の海外流失を取り締まるため上海の警察当局は8月、1億元(約20億円)を超える違法な外国為替取引に関与した疑いで、移住コンサルタント会社の社員5人を逮捕した。国営メディアによると、警察は、「違法な外国為替取引が国の金融市場の秩序を著しく混乱させている」との見解を示した。
フランスの投資銀行ナティクシスの推計によると、コロナ禍前は、中国人観光客が資金を海外に持ち出すことで、毎年約1500億ドル(約31兆円)が中国から流出していた。海外旅行はパンデミック前の水準には戻っていないものの、専門家は米国の高金利と人民元安が、潤沢な手元資金を国外に移す強い動機になっているとみている。
2023年上半期、中国の国際収支は195億ドル(約4兆円)の赤字だったが、専門家はこれを資本逃避の指標として使用しているが、非公式にはもっと多い可能性があるという。ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレーロ氏は、「中国での将来の経済政策やビジネスチャンスに関する高い不確実性」も、富裕層が貯蓄を国外に持ち出す動機になっていると分析する。
2021年、習近平国家主席は「共同富裕」のスローガンを復活させた。これは金持ちが富をより広く人民と分かち合うよう求めるものとして解釈された。その年、かつて中国で最も著名な起業家の一人だった馬雲(ジャック・マー)氏が設立したIT企業アリババは、この運動に1000億元(約20兆円)を寄付した。
だが、同紙によると、2015年の突然の人民元切り下げ(人民元ショック)の後、6000億ドル(約90兆円)以上が国内市場から逃げ出して以来、習氏は中国の金融エリートに不信感を抱いているとされる。そのため政府は、中国の富とその大部分を所有する富裕層に対する支配を強化した。中国共産党はまた、馬氏のような億万長者が中国の規制当局者に対して公然と疑問を投げかけたことに脅威を感じたという。その結果、馬氏は2020年の発言後、しばらく公の場から姿を消した。
一方、中国政府は3年間の「ゼロ・コロナ」政策を経て、再び市場の門戸を開いたが、「共同富裕」のスローガンは消えていた。さらに、ビジネスエリートへの政府の圧力は弱まっておらず、国境が開いた今、多くが出口計画を検討しているという。