注目ポイント
先週行われたドラフト会議で、ヤクルトは台湾史上初、現役高校生を育成一位指名した。高橋翔聖さんは、筆者がコーチを務める台北の少年野球クラブ出身で初のプロ入りとなった。来年6月の卒業を待って、ヤクルト球団と正式契約することになっている。多彩な変化球と150㎞を超える直球と恵まれた体格を武器に2026年の一軍入りを目指す。彼の野球センスと運動神経の良さは母親譲り。
台湾の在学中高校生ドラフト指名は超異例
10月26日に東京でドラフト会議が行われた。ヤクルトスワローズは台湾の高校に通う17歳の高橋翔聖さん(台湾名:徐翔聖)を育成ドラフト一位に指名して会場を沸かせた。台湾の高校生が指名されるのは史上初である。

高橋翔聖選手は小学校から野球を始め、高校は、陶器や焼き物で有名な鶯歌にある鶯歌工商職業高校に進学、野球部で活躍している。高校に入ってから急に身長が伸び始め、187センチと恵まれた体格を生かし、カーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシームと多彩な変化球を操る。ストレートの球速は公式発表では最速147㎞だが、今年の新北市長カップ野球大会では151kmを記録した。スピードのある直球と多彩な変化球と持ち味のコントロールの良さで将来大いに期待できる選手である。

台北の日本人少年野球チームから初のプロ入り
翔聖さんは小学生のころ、少年野球チーム、「台北サンダース」に入っていた。このチームは、台北に住む日本人の子供たちを対象に30数年前に作られたクラブチームで、部員は小4から中3まで多い時で50人くらいいた。筆者は約25年間、このチームの指導者をさせてもらっているが、7年前の翔聖さんは、小柄で、可愛くて、いつもニコニコしていて、どんな時でも本当に楽しそうに全力でプレーをする子供だった。身長も5年生にしては高くもなく低くもなく、眼光鋭いわけでもなく、どちらかというと羊のようなやさしい目で寡黙にコツコツ練習するタイプだが、守備の方はそつなくどこでもこなしていた。「サンダース選手年間」のプロフィールにもある通り、彼は母親と同じ熱烈な阪神ファンで、好きな教科は算数と答えていた。先日の記者会で本人にもう一度聞いたところ、好きなチームも好きな教科も変わらなかった。憧れの選手は元阪神の藤川球児さんだという。ちなみに翔聖さんの今の体格は、187㎝、81㎏である。7年間で体重は3倍近くまで増えたことになる。
翔聖さんには今年中学1年生になる大聖君がいる。大聖君も台北サンダース出身である。彼は去年の夏、米国ウイリアムスポートで行われたリトルリーグワールドシリーズで活躍し、世界第3位の獲得に貢献したあの大聖君である。これは「兄弟あるある」だが、兄弟を同じ学年の時の写真で見比べると見分けがつかない。二人とも野球大好き少年で、穏やかな笑顔でプレーするところもそっくりである。

台北サンダースは日本人学校中学部3年生までしか在籍できない。台湾に日本の高校がないからである。だからサンダースの子供の帰国が決まると、私たち指導者はお別れ会で決まって言う言葉が二つある。一つは「甲子園で会おう」、もう一つは「サンダース出身で初のプロ野球選手になれ」だ。ついに翔聖くんはサンダース出身でプロ野球の世界に足を踏み入れた最初の選手となった。サンダースの誇りである。

