注目ポイント
2024年1月に行われる台湾の総統選を巡り、米国や中国も交えた駆け引きが活発化している。野党陣営が割れて与党有利な状況が生まれる中、EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手・鴻海精密工業創業者の郭台銘氏が無所属での出馬に必要な署名の提出期限が迫り、米国が郭氏の立候補を側面支援するかのような対応を見せたのに対し、中国は参戦を断念させるためとみられる圧力をかけてきたのだ。11月24日の立候補届け出締め切りまで、ぎりぎりのせめぎ合いが続きそうだ。
郭台銘氏は署名規定数確保へ
総統選には、与党・民主進歩党(民進党)から頼清徳副総統、最大野党・中国国民党(国民党)から侯友宜・新北市長、第3勢力の台湾民衆党(民衆党)から柯文哲・前台北市長が出馬を表明している。これら政党推薦候補の届け出期間は11月20日から24日まで。
郭氏は国民党内の予備選で侯氏に敗れたため、無所属での出馬を目指している。政党推薦ではない場合、直近の総統選の有権者数の1.5%(約29万人)以上の署名を集め、11月2日までに中央選挙委員会に提出しなければならない。委員会は署名を審査したうえで、同14日までに結果を公表する。資金力と動員力が豊富な郭氏が、規定数の署名を確保するのは確実とみられている。
野党乱立か、一本化か
こうした情勢を受け、野党票が分散する傾向が強まり、頼氏が「漁夫の利」を得る構図が鮮明になっている。ケーブルテレビ大手TVBSが10月18日から24日まで実施した世論調査によると、各候補の支持率は頼氏が33%でトップに立ち、柯氏24%、侯氏22%、郭氏8%と続く。民間シンクタンク、台湾民意基金会が10月24日に発表した世論調査結果でも、支持率は頼氏26.5%、柯氏21.7%、侯氏20.2%、郭12.4%で、順位は同じだった。
ただし、野党側の3候補が一つにまとまれば、単純計算では支持率は50%を超え、頼氏を上回ることになる。そこで、野党陣営の一本化工作が実現するかどうかが、総統選最大の焦点となっているのだ。
侯氏と柯氏の陣営は10月14日、侯氏選対の金溥聡執行長と柯氏選対の黄珊珊総幹事が初めて候補一本化に向けた協議を行った。互いに協力して民進党を下野させ、政権交代後に連立内閣を組むことや、同時に行われる立法委員(国会議員)選で両党の議席拡大を目指すことなどで一致した。
しかし、肝心の総統候補を決める方法では、世論調査の支持率が高い方を選ぶべきだと主張する柯氏側と、野党連合の支持者による予備選実施を訴える侯氏側が譲らず、物別れに終わった。予備選は組織力で勝る国民党に有利とされることから、柯氏が受け入れる可能性は低く、一本化実現は難しいとの観測が強まっている。

© REUTERS
郭氏出馬を米国は後押し?
さらに、野党側の変数となっているのが、郭氏が本当に出馬するのかどうかという点だ。世論調査では最下位とはいえ、10%前後の支持率を保っており、その動向は総統選に大きな影響を与える。水面下で郭氏と柯氏が会談したとメディアで伝えられるなど、柯氏が侯氏を揺さぶる材料にもなっている。