注目ポイント
日本の歌謡界に韓国から「トロット」という音楽ジャンルが参入しようとしている。解放後(戦後)の韓国で歌い継がれてきた韓国風演歌・歌謡曲で、K-POPの隆盛により一時期低迷していたが、テレビのオーディション番組をきっかけに大復活を遂げ、いまや幅広い世代のファンがいる。そんなトロット歌手を選ぶオーディション番組が、日韓の企画会社によって日本でもこの冬からスタートする。
K-POPと人気を二分する音楽ジャンル
ジャニーズ問題で揺れる日本の歌謡界に、韓国が新たに「トロット」という音楽ジャンルで進出を目論んでいる。日韓の企画会社によるオーディション番組「トロット・ガールズ・ジャパン」がこの冬からWOWOWで放映されるというのだ。
とはいえ、トロットなんて言葉、聞いたことがないという人も多いはずだ。日本で韓国歌謡と言えば「K-POP」が連想されるが、韓国でトロットはK-POPと人気を二分するほど広く親しまれている。昨年末、韓国の世論調査会社・韓国ギャラップが発表した「2022年を輝かせた歌手」には、BTSと並んでトロット歌手のイム・ヨンウンが選ばれたほどだ。

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日本でトロットは「韓国演歌」と紹介されることが多いが、それは当たらずとも遠からずである。解放後(戦後)の韓国歌謡界に根を張ってきたジャンルで、古き韓国の雰囲気に満ちていて、聴くとどこか懐かしい。日本でいう「懐メロ」に近いイメージだ。
語源を調べると、1910年代に米国で流行した社交ダンスのリズム「フォックストロット」から採られた“韓製英語”で、日本統治下に伝えられた日本の伝統音階「都節音階」や朝鮮半島の伝統的な民謡などが組み合わさり、独自の歌謡として発展してきたようだ。
テレビ番組が“地味でダサい”イメージを一蹴
韓国はこの5年近くトロットブームに沸いている。その火付け役になったのが、2019年にテレビ朝鮮で放映されたオーディション番組「明日はミス・トロット」である。
それまで地味でダサいと思われていたトロットを、明るく楽しいジャンルとして印象付け、放送ごとに視聴率は鰻登りだった。しかも1位に輝いたソン・ガインは、韓国伝統の歌唱法による高い歌唱力と親しみやすさですぐに大人気となった。
さらにその翌年に同局で放映された男性版の「明日はミスター・トロット」で優勝したのが、前出のイム・ヨンウンだ。現在30代前半というMZ世代(ミレニアル世代・Z世代)で、穏やかな表情と甘い声は、40代以降に留まらず若い世代でもファンを獲得し、一大トロットブームをもたらした。

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韓国ではこの15年ほどK-POPの人気が高く、キレッキレのダンスで安定した歌唱力、抜群の音程を誇る歌手たちが続々とデビューしている。特に最近では、BTSやBLACKPINKのように、韓国歌謡が得意としてきたバラードに、アメリカのヒップホップを大胆に融合させるケースが主流だ。
ただ、BTSの所属事務所であるHYBEの創業者パク・シヒョク氏が「K-POPからKを取り外すのが夢」だと語ったことが象徴しているように、最近のK-POPは韓国らしさが薄まっている。