注目ポイント
米政府は10月17日、中国への半導体輸出規制を強化する方針を打ち出した。1年前に導入した対中輸出規制を改定し、人口知能(AI)などに使われる先端半導体の輸出をより厳しくする。軍事技術にも結び付くAI分野での中国の台頭を抑え込もうとする姿勢を鮮明にした形だが、中国メーカーは技術力を高めており、半導体を巡る米中の攻防は激しさを増している。
AIや兵器関連で規制厳格化
中国を相手にした規制としては、米政府は2022年10月、米企業による先端半導体や製造装置の対中輸出を禁止し、製造装置に強みを持つ日本とオランダにも同調するよう求めた。米国籍の人が中国の半導体企業で働くことも禁じた。今回の強化措置では、AIや最新兵器システム開発などに使われる先端半導体に関して、規制する性能基準を厳格化した。スマートフォンやパソコンなど商業製品用の半導体は対象外だ。
今回、米政府が規制厳格化に乗り出したのは、米半導体企業が規制基準に抵触しないように改変した製品を中国に輸出していた事実が明らかになったのがきっかけだった。半導体大手エヌビディアは、一部性能を落とすなどして仕様を変更したAI向けチップを開発し、中国に輸出していた。規制開始から1年が過ぎ、米国政府が実効性を検証する中で、こうした実態が浮かび上がってきた。
ファーウェイ「5G」対応スマホ発売か
また、米政府は中国以外に、ロシアやイランなど米国が武器輸出を禁じている21カ国に対しても、先端半導体と製造装置の輸出を禁止した。これらの国の企業の海外子会社も規制対象とする。第三国を経由した迂回輸出を封じるためだ。
米政府は8月に、半導体やAI、量子技術などの先端分野で、米国企業による中国企業への投資規制に踏み切ったばかりだ。すでに実施ずみのモノ・ヒトの規制に加え、直接投資というカネの面にも網をかぶせることで、抜け道をふさぐ狙いだ。
このように米国が対中半導体規制を加速させる背景には、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が高速通信規格「5G」に対応したとされる新型スマホを売り出したことがある。ファーウェイは詳細を公表していないが、搭載している半導体は自社開発品とみられ、米国内で対中半導体規制の有効性を疑問視する声が上がっていた。

© CFOTO/Sipa USA via Reuters Conne
SMICに製造委託の「キリン9000s」
ファーウェイが8月から販売を始めた新機種のスマホ「Mate60Pro」は画面上に「4G」「5G」などの表示は出ず、ファーウェイも5Gスマホと公称していないが、ダウンロード時間の速さなどから、「5G」に対応しているとみられる。このスマホを調べたカナダの調査会社は、ファーウェイが設計し、中国の半導体受託製造会社(ファウンドリー)大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に製造委託した半導体「キリン9000s」を搭載していると結論付けた。
「キリン9000s」は回路線幅が7ナノ(ナノは10億分の1)メートルで、先端半導体に位置付けられる。半導体は回路線幅が狭いほど性能が向上し、ファウンドリー大手の台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子はすでに、7ナノ品の2世代先を行く3ナノ品の量産を始めている。そんなTSMCやサムスンと比べるとまだ技術力に差はあるものの、SMICが懸命に追い上げている状況がうかがえる。

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