注目ポイント
オーストラリアの民間研究機関「オーストラリア国際問題研究所」は今週、日本と中国の長期にわたる歴史問題や領有権をめぐる論争など、両国の政治・外交交渉は行き詰まっていると分析。それに加え、福島第1原発の処理水放出や、中国駐在の日本人社員がスパイ容疑で不可解な逮捕をされるなど、日中関係の緊張はますますエスカレートしている。
豪州の有力シンクタンク「オーストラリア国際問題研究所」は、「8月に日本が福島第1原子力発電所からの処理水放出を決行したことで、新たな騒動が勃発した」と切り出した。処理水放出は国際原子力機関(IAEA)によって承認され、科学的根拠をもとに安全であるとされたが、中国政府はIAEAの評価を受け入れず、激しい日本批判を繰り広げている。
ただ、同研究所は「中国や韓国、台湾をはじめ核施設を持つ多くの国が放射性トリチウムを海洋に放出していることは周知の事実だ」と指摘した。
にもかかわらず中国側は、太平洋が〝日本の私設下水道〟として利用されていると主張。中国政府は〝食品の安全性〟への懸念を示し、全ての日本産水産物の輸入を停止。経済的影響と日本の水産物市場の価格下落を招いた。函館税関が19日発表した9月の道内貿易概況によると、道内から中国向けの「魚介類・同調製品」の輸出額はゼロだった。
外交上の争い以外にも、中国のソーシャルメディアでの荒らし行為や無数の迷惑電話が日本の政府機関や企業を襲っている。中国共産党系タブロイド・環球時報は日本を「ならず者国家」と呼んだ。日本政府は今後も処理水放出を実施するため、同研究所は「この問題は今後もくすぶり続ける」とした。
そんな中、北京でアステラス製薬の50代の日本人男性社員がスパイ容疑で拘束された事件で、中国当局が男性を正式に逮捕したことが19日分かった。松野博一官房長官は記者会見で男性が10月中旬に逮捕されたことを確認していると述べた。
日本政府は早期解放を呼びかけてきたが、中国側は応じなかった。そのため、中国で邦人の安全確保が難しい現状が改めて浮き彫りになり、日本企業が中国への進出や投資を抑制する影響が出るのは避けらず、日本で中国渡航を自粛する動きが広がることが予想される。
中国外務省の毛寧副報道局長は19日の記者会見で、詳細な情報提供を求める質問に対し、「中国は法治国家であり、法に基づいて事件を処理する」と述べるに留まった。
逮捕された男性は3月の帰国直前に「反スパイ法と刑法に違反した」として国家安全当局に拘束され、北京の収容施設で監視下に置かれた。正式逮捕するかどうか当局が判断する刑事拘留の措置を取ったと中国側は日本政府に9月に伝え、司法手続きが進んでいた。今回の逮捕により、男性は今後起訴され、裁判が行われるとみられる。
そんな状況下、日本は近隣国との関係が近年どの時期よりも戦略的に最も困難で危険であるかを認識しているとオーストラリア国際問題研究所は指摘。北朝鮮やロシアとの関係悪化に加え、力による一方的な現状変更は日本の安全保障に大きな影響を与えることから、台湾に対する中国の動きは特に懸念されている。