注目ポイント
台湾は宗教の多様性に富むことで知られ、民間信仰、道教、仏教、プロテスタント、カトリックといった伝統宗教から新興宗教まで、多様な宗教観を持つ人々が暮らしている。そして、どんな宗教であっても祭事や儀礼に欠かせないのが「花」だ。
私が経営する花屋でも、毎週、宗教関連の注文をいただいている。その対応をしていて「台湾らしさ」を感じるのが、日本と比べてカラフルな花の注文がよく入ることだ。
花束の金額や色で願い事の成就度が変わる?
例えば、道教では赤やピンクなど派手な色の百合や菊を使ったアレンジメントが好まれるし、キリスト教では祭事のテーマに合わせたカラーを求められることが多い。先日はイスラエルとパレスチナの紛争解決を願う教会各所から、イスラエル国旗の白と青を基調にしたアレンジメントや花束の注文をいただいた。納品を終えて礼拝の様子を覗いてみると、多くの台湾人が集まり戦争の早期終結を願っていた。
最近、台湾の人々の間で「願い事を何でも受け入れてくれる」と人気のブラフマー神の場合は、花を好む神様で、お供えする花束の金額や色によって願い事の“成就度”が変わると言われているため、若い人でも高価で特別な配色の花束を注文する人が多い。そもそもブラフマー神とはヒンドゥー神の三大神で、仏教では「梵天」と呼ばれる四面八臂(四つの顔と八本の腕)の神様。台湾では「四面仏」と称され、1980年代にラクフックグループ(六福集団)の創業者がタイから迎えて台北市内のビジネス街に祀ったものが、台湾で初めて一般に公開された四面仏の祠とされ、連日、老若男女が祈願やお礼参りのために長蛇の列をつくっている。

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墓前への供花は花屋に任せるのがベター
お供えの花といえば、台湾の著名人の墓前にお供えする花を探しにくる日本人観光客も昨今は増えている。日本人、台湾人を問わず特に人気なのが、「台湾民主化の父」と呼ばれ、台湾と日本の関係の発展に尽くした第4代総統の李登輝や、国境を超えて愛された「アジアの歌姫」ことテレサ・テンのお墓参りだ。

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大の親日家として知られた李登輝だからだろう、墓前に手向ける花は和風の花束や春の季節は桜の花束、白系の百合や蘭のように日台のつながりを意識させる組み合わせが選ばれることが多い。一方、テレサ・テンは生前、紫色が好きだったことがよく知られていて、葬儀の棺には紫の布がかけられていたというエピソードもあるほどだから、お供えの花も紫色を基調にした花束が人気だ。
現在の台湾と日本との関係性、そして台湾が今も在るのは多くの先人の努力の賜物であり、そうした方々を偲ぶことに花屋として携われることは非常に光栄だ。今後もより多くの日本人に、台湾の歴史や文化に興味を持ってほしいと切に願っている。
ちなみに、台湾で故人の墓前にお供えをする場合、その人の好きな色や花があればそれをお供えするのが望ましいが、もしわからなければ、花屋に任せたほうが無難だろう。日本と同じようにお供えに適した花と適さない花があり、お祝いのイメージが強い赤いバラは避けられ、菊や白系の花が好まれる。花の品質、値段、開花具合などのマナーもあるため、気軽に相談してほしい。