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韓国当局は昨年、台湾の潜水艦建造計画に参入した自国企業を通商法違反の疑いで訴追したが、その背景には韓国政府が中国による報復を恐れての措置だった可能性が浮上した。ロイター通信が16日伝えた。
ロイター通信と事情に詳しい関係者2人が入手した警察文書によると、韓国の捜査当局は昨年2月17日、SIイノテックの常務取締役パク・マルシク氏に対して、同社が台湾初の国産潜水艦建造計画に参入し、違法行為があったとして、通商法違反の疑いで裁判所に逮捕状を請求した。
その際、捜査当局は逮捕状の請求理由として、韓国政府が米国の弾道弾迎撃ミサイル・システム「THAAD」の設置を決定したことにより、2016年に中国が韓国に科したのと同様の広範な制裁が再び発動されることを当局が懸念していると証言していた。中国は17年末、韓国への制裁を解除している。
逮捕状請求書には、SIイノテック社が台湾に潜水艦製造設備を供給する契約は「韓国の国家安全保障に直接影響する」とし、韓国政府の武器販売規制当局者らと協議した警察は、中国による経済制裁など、「THAAD配備の際と同様の危機を懸念している」と記されていた。
請求書はまた、韓国国営の防衛事業庁(DAPA)が、ある下請け企業に対し政府は台湾への輸出に関して懸念を抱いており、そのような承認については「非常に慎重な姿勢をとっている」と伝えたという。事情に詳しい関係者によると、裁判所はパク氏に逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、昨年2月28日に逮捕状を発行した。
ロイター通信が確認した請求書の中で警察当局は、台湾の潜水艦建造計画に取り組んでいる韓国など7か国の防衛事業請負業者らに対し、中国政府が激怒しているとするロイター通信の21年の報道内容を引用していた。
22年8月に罰金刑を言い渡されたSIイノテックと、執行猶予付き有罪判決を受けたパク氏は一切の不正行為を否認し、控訴している。パク氏は弁護士を通じてコメントを拒否した。
法廷記録や事情に詳しい関係者4人によると、台湾に製品を供給していたとする別の韓国企業2社も昨年11月に通商法違反で起訴され、同社の最高経営責任者1人が産業スパイ容疑で起訴された。
その潜水艦建造計画をめぐっては、中国との軍事的緊張が高まる中、台湾は9月28日、南部の港湾都市・高雄で初の国産潜水艦を公開。同艦は間もなく海上試験に入る予定だ。
これまでの取材を通してロイター通信は、韓国の最大貿易相手である中国への政治的配慮が、SIイノテックなど3社に対する捜査にいかに深く関係しているのかを示していると指摘した。
逮捕状請求書には、潜水艦の専門知識を持つ企業の多くが、中国による韓国製品の輸入禁止など、「利益よりも経済への大きな損害」のリスクをおそれる韓国政府から承認が得られないことを考慮し、台湾との取引を避けたとしている。