注目ポイント
台湾では10月10日、辛亥革命(1911年)に由来し、事実上の“建国記念日”と位置付けられている「双十節」祝賀行事が行われ、蔡英文総統は総統府前の式典会場で登壇。台湾への軍事的圧力を強める中国に関し、台湾が自主建造した潜水艦の進水を誇示しつつ、「(中台両岸の)どちらも一方的に現状を変えることはできない」と述べ、「平和共存の道を発展させたい」などと、「現状維持」が平和のカギであると強調。日米など民主主義国家との連携姿勢を打ち出した。しかし馬英九前総統ら最大野党・中国国民党幹部らは「中華民国」色が希薄であることに不満を示して欠席。来年1月に総統選をひかえ与野党対立も鮮明になった。台湾の総統は最大任期が2期8年であるため、今回は蔡氏にとって最後の双十節演説。そこからどんな思いが読み解けるのか。台湾の政治に詳しい小笠原欣幸・東京外大名誉教授が分析した。
10月10日、蔡英文総統の8回目、そして任期中最後の「国慶日」演説は、蔡政権の8年の成果を内外に表明する場となった。
蔡英文総統の「双十節」スピーチ
1.内政の成果
最初にもってきたのが自主建造した潜水艦の進水であった。30年の前の計画がついに実現したと成果を誇った。
次に、蔡氏がこだわっていた国内改革の成果として、同性婚合法化、年金改革、低家賃の住宅20万戸供給、グリーンエネルギーの発電量が原発を上回ったことなどを挙げた。
経済の成果では、GDPがこの7年で17.5兆台湾元から23兆台湾元に成長し、平均成長率は台湾、韓国、シンガポール、香港からなる「アジア四小龍」のなかでトップ、6年連続して政府の会計は黒字になったことを挙げた。
貿易では,米台21世紀貿易イニシアチブの締結や、新南向国家(ASEAN=東南アジア諸国連合=諸国、南アジア、オーストラリア、ニュージーランドの計18カ国)への輸出が史上最高になったこと、また、EUが台湾への最大の投資国になったことなどを挙げ、明示はしていないが、過度な中国経済依存を減らしていく方向に向かっていることを成果として言及した。

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2.中台関係・国際政治
中台関係では、過去の演説では中国批判があったが、今年はなかった。一国二制度を拒否するとか、統一は受け入れないなどの文言は一言もなかった。代わりに述べたのが、「平和で安定した両岸関係を構築するための努力」であった。また、台湾の民意を基礎として北京当局と双方が受け入れ可能な関係の基礎と平和共存の道を発展させたいとも述べた。
今年の演説では「共存・共處(持ちつ持たれつ)」の用語が3回でてきた。
これは、去年はなかった用語であり、今年の演説がマイルドな印象を与える要因でもある。「台湾がトラブルメーカーだ」という中国側の宣伝に口実を与えないよう苦心した跡がうかがえる。8年間慎重にふるまってきた蔡氏らしさが表われた。

安全保障の分野では、抑止力の強化について声高に語ることを控えた。台湾の自らの「国防努力」と台湾海峡のリスク管理の重要性を冷静に強調する内容であった。
台湾が国際社会に欠かせない存在になったこと、日台関係、米台関係が盤石であることに特に言及したところに、この8年間で中国の武力行使を抑止する枠組みが形成されてきたという蔡氏の自信がにじみ出ていた。
日本の高校生のマーチングバンドが2年続けて台湾の国慶節でパフォーマンスを行なったことも、日台交流が安定して継続していることを象徴していた。

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