注目ポイント
台湾では10月10日、辛亥革命(1911年)に由来し、事実上の“建国記念日行事”とされている「双十節」祝賀行事が行われ、蔡英文総統は台湾と中国の「平和共存の道を発展させたい」などと台湾海峡情勢を意識した演説を行った。台湾の総統は3選できないため、現在2期目の蔡英文氏の双十節の演説は今回で見納めとなり、これ以降台湾社会の関心は与野党の熾烈な戦いが予想される来年1月の総統選が焦点となる。近年では台湾のダイナミックな選挙戦を観戦する目的で訪台する海外からの旅行者も増えており、コロナ禍が収束した現在、中国の圧力が増すなかでの台湾2024総統選の注目度は一層たかまりそうだ。
与野党対決の姿勢鮮明に
総統府前で10日に開催された恒例の双十節祝賀行事で蔡英文総統は、「現状維持を核心にして、中国側と台湾双方が受け入れることができる土台を発展させて、平和共存の道を発展させたい」と強調。「台湾統一」をかかげ、軍事的圧力を強める中国の存在に触れ、台湾の「現状維持」を呼びかける演説を展開した。
蔡総統の任期は次期総統が就任する予定の来年5月まで。
今回の双十節はコロナ禍が収束し、4年ぶりに海外からも大勢のゲストを迎えたこともあって、蔡英文政権にとって一種の「花道」となった様相で、式典には日本から、萩生田光一政調会長や国会議員の訪問団約40人も参加した。
しかし総統府前で行われた祝賀行事では、前総統の馬英九氏をはじめ、最大野党・国民党幹部らが欠席に踏み切るなど、次期総統選を目前に与野党の対決姿勢も浮き彫りになった。

乱立選?旅行業者は「特需期待」
次期総統選は立法委員(国会議員に相当)選とともに来年1月13日の投開票予定で、12月中旬から本格的にスタートする。
与党の民進党は、蔡英文総統の後継者として頼清德副総統を候補者に擁立。一方最大野党の国民党は侯友宜氏、第三勢力の民衆党は柯文哲氏を擁立。さらに日本のシャープを買収した台湾の電子機器受託製造大手・鴻海(ホンハイ)精密工業創業者で元会長の郭台銘氏も無所属で出馬する意向を示しており、今後野党候補の調整なども注目されるが、状況によっては4人が総統の座を争う乱立選挙となりそうだ。
熾烈な選挙戦が展開される12月から1月は、年末年始休暇で日本から台湾を訪れる人も多くなる時期だが、近年では日本と選挙制度の異なる台湾の、将来を左右する総統選や統一地方選など重要な選挙戦を観戦する目的で訪台する旅行者も増えてきている。
また海外在住の台湾人は、自身の戸籍所在地に戻って投票しなければならないため、総統選のある年は、その後にひかえている春節(旧正月)休暇と一緒にしたり、前倒しで帰郷したりするケースが珍しくなく、旅行業者も「選挙特需」の時期に備えている。
総統候補との触れ合い、巨大ポスターも
台湾の選挙の候補者は、連日支持者らの前にやってきて支持を訴えるなど、市民との距離が近いのが特徴で、候補者は演説が終われば集まった人々の中に飛び込み、写真撮影や握手、サインと、アイドルのファンサービスのような展開で一体感を演出することも多々ある。

総統選ではこうしたかたちで台湾のリーダー候補と触れ合える機会になるため、コロナ禍から回復傾向にある日本の訪台旅行者のなかには、選挙戦にあわせて早々と航空券や宿泊先をおさえている人もいるほどだ。