注目ポイント
「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」ーー万葉集に収められている山上憶良の2首の歌から、日本では「秋の七草」(オミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギ)の概念ができあがった。「春の七草」が七草粥にして食べることで健康を祈願するのに対し、秋の七草は見て楽しむことが目的とされている。台湾では秋の七草に匹敵するような花や木は存在せず、手に入るものといえばススキくらいだが、そんな中でも季節の移ろいを感じさせてくれる花材がある。
10月や11月でも30℃を超える日がある台湾では、秋という季節感に乏しい。ただ、以前も紹介した通り、中秋節の時期には「月」をイメージした黄色のピンポンマム(ピンポン菊)がよく出回り、市場では白や赤いピンポンマムだけ売れ残っていることもしばしばある。

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季節の移ろいを教えてくれる中華風いけばな
私が台北で経営する花屋では、ボリューム感があって花保ちが良く、それほど高価ではない牡丹菊も老若男女問わず人気の秋の花材だ。年配の方にとっては昔から馴染みがあり、派手な赤、ピンク、オレンジなどの暖色系が、若い世代には淡いピンクや紫が好まれている。最近は2色、3色、レインボーのような色合いもよく見かけるようになった。
また、秋になると街の至るところで、涼やかな印象を与えてくれる中華デザインのいけばなを目にする。台湾原住民(先住民)の間で花を贈る文化があまりなかった台湾では、「いけばな」といえば「中国のいけばな=中華插花」のイメージが強いが、最近は「日本のいけばな=日本插花」に関心を持つ人も増え、私が主宰するいけばなのレッスンは常に満員だ。一般人からすると中華風、和風の区別は難しいだろうが、どちらも空間を生かし、花の密度や数量よりも1本1本を美しく生けることに関しては共通している。

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日本の秋の花をいかに安価で届けるか
日本と同じようにこの時期の台湾では菊の流通が多いものの、お供え物の印象があるせいか、ギフトで避けられることも多い。そういった方に筆者がおすすめしているのが、日本から輸入している花材だ。
例えば「リンドウ(竜胆)」や「ワレモコウ(吾亦紅)」は台湾でも日本と同じ漢字で表記され、日本の秋を感じさせる花の代表格だ。とはいえ、どちらも非常に高価で、時期にもよるがリンドウの市場価格は1本約40元(約185円)以上、ワレモコウは1本約90元(約415円)以上、店頭価格はそこからさらに2倍から5倍になる。近年の物価高の影響もあるかもしれないが、日本の輸入花材は別格の高さで、一般人が手を出せる価格ではなくなってきてしまった。

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日本人が経営する花屋として、店頭には常に日本の花々も陳列しているが、値段が理由で購入を断念するお客様も少なくない。なるべく安く提供しようとさまざまな努力をしているものの、廃棄するコストなどを考慮すると、必然的に他国からの輸入花材より高くせざるを得ない。今後もより安く品質の良い日本の花材を提供し、日本と台湾の架け橋となれるよう、両国の市場とも連携していきたい。