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米国社会の麻薬汚染の元凶とされ、過剰摂取による死者が最も多い合成麻薬「フェンタニル」の製造や密輸に関与したとして、複数の中国企業や中国人らが訴追された。フェンタニルはコカインや覚せい剤などと混合される違法合成麻薬で、バイデン政権は米社会で深刻化する薬物汚染への対策強化を迫られており、訴追を通じて中国当局に対応を迫る狙いがある。
米司法省は3日、合成麻薬「フェンタニル」の原料製造や米国への密輸などに関与したとして、中国を拠点とする製薬会社など8社と中国人12人を訴追したと発表した。同省のガーランド長官は同日の記者会見で、「米国人に死をもたらすフェンタニルの国際供給網は多くの場合、中国の化学会社を起点としている」と非難した。
フェンタニルの原料となる化学物質が中国で製造され、メキシコの麻薬カルテルが製品化し、米国に大量に密輸していることが分かっている。同長官は、「中国政府が阻止することが重要だ」と強調し、中国当局に取り締まりを求めた。だが同氏は、起訴対象者全員が逮捕には至っておらず、捜査で中国政府の協力は得られなかったと述べた。
米財務省も、麻薬の原料製造や密輸に関わったとして、中国やカナダを拠点とする28の個人・団体を制裁対象に指定したと発表。米国内の資産が凍結され、米国人との取引が制限される。
訴追や制裁の対象にされたのは、中国湖北省武漢市の製薬会社「湖北翰弘化工有限公司」と、その所有者で中国籍の男(30)ら。男は香港などに複数の会社を持ち、麻薬組織を構築。取引先にはメキシコ最大級の麻薬カルテル「シナロア・カルテル」も含まれていたという。
ロイター通信によると、在米中国大使館の劉鵬宇報道官は、米政府の措置を強く非難すると表明し、中国政府は断固とした姿勢で麻薬対策を行っていると強調した。
フェンタニルはもともと医療用に開発されたが、米国では深刻化する麻薬汚染で最も問題になっている薬物だ。鎮痛剤としてモルヒネの50倍の強さを持ち、医療現場では末期のがん患者などの苦痛を緩和するために使用される。ところが、違法な使用が広がり、依存性が高いため、過剰摂取による死亡事故が後を絶たない。
米国では薬物の過剰摂取による死者が、2015年から21年の間に約7倍に膨れ上がった。21年に薬物の過剰摂取による死亡事故は、約10万7000件発生。うち3分の2がフェンタニルによるもので、18歳から50歳までの死亡原因の1位にもなっている。この死者数は、コカインの一種であるクラックの流行が最盛期だった1988年の麻薬死亡者数の10倍以上に上る。
米麻薬取締局によると、米国に直接密売されるフェンタニルおよびフェンタニル関連物質の主な供給源はメキシコと中国で、フェンタニル製造に必要な物質のほぼ全てが中国から調達され、メキシコで密造されている。さらに、その物質を製造する企業は、捜査当局の手から逃れるため、日常的に偽の返送先住所を使ったり、製品に不正なラベルを貼付しているという。