注目ポイント
エバー航空の機内では離着陸時に「雨夜花」が流れる。町では「乙女の祈り」や「エリーゼのために」を流してゴミ収集車が来たことを市民に知らせる。そして春節が近づくとどこもかしこも「恭喜恭喜」がBGMとして延々と流れて来る。台湾には台湾人の魂を揺さぶる歌があり、生活にピッタリ密着した曲があり、もはや歳時記の一部となった歌がある。今回はそんな曲を紹介する。
飛行機の中で「雨夜花」が流れると思わず目頭が熱くなる
凱旋帰国にしろ、傷心帰省にしろ、或いは旅行帰りや一時帰国にしろ、私たち日本人はどんな歌を聞いた時、どんな景色を見たとき、「ああ、日本に帰ってきた」と思うのだろう。飛行機の窓から見る富士山や故郷の山河か。演歌か童謡か、はたまたアニソンか。

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エバー航空は離着陸時に、機内に「雨夜花」を流す。台湾に名曲は多々あれど、「高山青」でもなく、「夜来香」でもなく、「国境の南」でもなく「雨夜花」を流す。エバー航空の機内で流れる「雨夜花」はオーケストラバージョンで、それがまた何とも言えない情緒を醸し出している。留学、研修、結婚、出稼ぎなど日本で一苦労してきた台湾人が、帰りの機内でこれを聞いたら思わず目頭が熱くなってしまうだろう。台湾人ではない筆者でさえ、雲間から台湾西北部の陸が見え始め、高度を落としていく機内で「雨夜花」のオーケストラバージョンを聞くと毎回泣きそうになる。
この歌の歌詞は、花柳界に堕ちたある女性の運命を雨の夜の花に喩えた悲しい失恋歌である。帰台する人たちの心を打つのはこの歌詞ではなく、やさしくて悲しくて切ないメロディである。1934年に鄧雨賢が作曲したこの美しいメロディは、90年経った今でも色褪せず、多くの台湾人の魂を揺さぶり続けている。
日常生活に欠かせない「乙女の祈り」と「エリーゼのために」
駐在員、留学生、観光客、移住者など、台湾で日々を過ごす日本人が日常生活でしょっちゅう耳にするようになる音楽がある。ゴミ収集車から流れて来る「乙女の祈り」(バダジェフスカ作曲)と「エリーゼのために」(ベートーヴェン作曲)である。
台湾のゴミ出しは日本と違って、定時に定地点に来るゴミ収集車まで自分で持って行かなければならない。台湾には日本のようなゴミステーションやゴミ置き場がない。各市が指定する有料ゴミ袋にごみを入れて収集車まで持って行き、一般ゴミ、資源ゴミ、生ゴミに分けて自分でゴミトラックに放り込む。粗大ゴミは市政府の環境局の清潔隊に連絡して、取りに来てもらう。管理費を取るマンションではマンションの一角にごみを集めておいて、業者に有料でゴミ処理をしてもらう。

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有料のゴミ袋にごみを分別して入れて、ゴミ収集車が来たら自分で持って行くというスタイルが確立したのは、わずか30年前である。今では、台湾各地のゴミ収集車は住民に到着を知らせる合図として大音量で音楽を流すが、この音楽に「乙女の祈り」が選ばれたのは、ある偶然がきっかけであると言われている。