注目ポイント
米国務省は先週、中国の情報操作に関する特別報告書を公表した。偽情報や検閲、メディアへの影響力拡大など「詐欺的かつ威圧的な手段」で、中国と共産党のプロパガンダを海外に広めようとしていると批判。野放しにすれば、各国が自国よりも中国の利益を優先する決定を下しかねない環境が生まれると警告した。
米国務省の「グローバル・エンゲージメント・センター」は先月28日、中国の情報戦略を分析した報告書を初めてとりまとめ、公表した。その中で、中国が毎年、海外での情報操作に数十億ドル(数千億円)を投じていると指摘し、台湾や人権、南シナ海などをめぐる問題で、中国の意に反する情報を抑圧しているとした。
一例として、ある国連機関では中国人がトップを務めた期間に、「台湾」という呼び名が「中国の省、台湾」に変更されたことを挙げ、国際社会における台湾の活動を制限するため、情報戦でも圧力を強めていると分析した。
報告書はまた、中国が「公開・非公開の手段」で外国メディアの株式を取得したり、インフルエンサーを支援したりするなど、情報操作に年間数十億ドルを費やしていると指摘。中国政府のコンテンツであることを隠して情報配信する契約を結ぶなど、さまざまな手段で海外メディアへの影響力を高めようとしていると強調した。
例えば、アフリカでは衛星ネットワークなど関連インフラ投資を強化し、視聴者に提供する基本サービスから意図的に欧米のニュースチャンネルを排除していることも判明。企業への報復も含め、脅迫して自主的な検閲を促し、多くの外国人も使う中国の通信アプリへの統制を厳格化し、表現の自由を制約していると分析した。
実際、米経済誌「フォーブス」は7月、中国企業が運営するソーシャルメディアTikTokが、欧州のユーザー数百万人に向けて、中国政府のプロパガンダ機関による広告を大量に配信してきたことが明らかになったと報じた。
「広告の内容は、コロナ対策の都市封鎖を擁護するものから、万里の長城で遊ぶ愛らしいネコ、新疆ウイグル自治区を観光地として宣伝するものまで、多岐にわたっている」という。
フォーブス誌が「広告ライブラリ」を分析した結果、人民日報やCGTNなど国営メディアの広告が1000本以上掲載されていた。これらの広告は、オーストリア、ベルギー、チェコ、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、アイルランド、オランダ、ポーランド、英国の数百万人のユーザーに配信されていることが明らかになった。
「広告ライブラリ」とは、フェイスブックが広告の透明性を図るために提供しているツールで、これを使うとインスタグラム、フェイスブック、オーディエンス・ネットワーク、メッセンジャーに配信されている全ての広告を、誰でも閲覧することができる。
中国の国営メディアがTikTokに掲載した広告の多くは、中国の経済や文化遺産を宣伝するものだったが、あるアカウントが配信した広告124件のうち92件に新疆ウイグル自治区への言及があった。同自治区では、中国政府がウイグル族を弾圧しているとされ、米政府などはこれをジェノサイド(集団殺害)と呼び批判している。