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アジアや欧州では多くの国がようやく空港を再開し、旅行者受け入れを始めた矢先、新型コロナウイルスの新たな変異種オミクロン株が再び世界をパニックに陥れ、各国はまたもや外国人旅行者に門戸を閉じた。そんな中、世界の観光業にとって最大の“お得意様”だった中国は今後も当面、自国民の海外旅行を許可しない方針だ。
中国政府はオミクロン株出現以前から“ゼロ・コロナ政策”を掲げ、国民の海外渡航を極端に制限し、国際線の便数もこの冬はコロナ禍前のわずか2.2%に留めると発表した。
さらに、同政府は8月以降、新たなパスポートの発行を事実上停止しており、一方で全ての入国者に対し14日間の隔離を義務付け、帰国者については「提出書類が山のように必要で、複数回のPCR検査が求められる」という。
中国の国営放送CCTVによると、21年末までに海外に出かける中国人観光客は2562万人と推定し、前年比で25%以上の増加だ。といってもコロナ禍が始まった昨年は2033万人で、2019年に比べると実に86.9%の落ち込みとなった。
米紙ニューヨーク・タイムズは「この10年で中国以上に世界の観光産業にとって重要な国はない」と指摘。コロナ禍前の19年だけでも中国人観光客による海外での消費額は約2600億ドル(約26兆円)にも上り、世界最大。長引くコロナ禍の影響で落ち込んだ観光産業の収入は、中国人抜きでは以前の景気には戻らないとし、中国が海外渡航を全面許可するまでには2年を要するとの専門家の見方を伝えた。
観光収入の激減は特に東南アジアが深刻だという。タイムズ紙によると、フルーツマーケットとして有名なタイ・バンコックの「オートーコー市場」では以前、テーブルを囲んでドリアンを食す中国人観光客でにぎわっていたが、現在は事実上の開店休業状態だという。
市場のある店主は、ドリアンを常に300~400キロ確保し、週3~4回同量を仕入れていたというが、現在は借金で生活していると嘆いた。
ベトナムではコロナ禍により廃業または休業した観光業の事業者は全体の95%に上るという。かつては中国人観光客が海岸リゾート地のダナンやニャチャンに押し寄せ、ベトナム全体の外国人観光客の約32%を占めていた。
インドネシアを代表するリゾート島バリでも中国人相手の旅行会社経営者は従業員の給与を5割カットせざるを得なくなり、旅行業からフードデリバリーサービスやカフェ経営に移行し、しのいできたとタイムズ紙に明かした。
東アジアでも中国依存度が強い観光地は深刻さが増している。韓国・済州島は19年には100万人以上の中国人観光客が訪れる人気スポットだったが、今年1月から9月までは、その数わずか5000人にまで激減。そのため同島にある中国人向け免税店は半分がすでに閉店したという。
2月に北京冬季五輪を控える中国政府は、“鎖国”状態にすることでコロナウイルスを抑え込む方針で、その後も世界のコロナ情勢をニラみつつ海外渡航を許可するとの見方が強い。 “中国人旅行者バブル”が消えた各国の観光産業は今後、チャイナマネーからの脱依存が迫られている。