注目ポイント
エマニュエル駐日米大使が本国から〝お叱り〟をうけたという。福島第一原発の処理水放出などをめぐって中国を手厳しく批判したのがワシントンの気に障ったようだ。日本にとっては大きな援軍だったが、バイデン政権にしてみれば、対中関係改善の機運に水を差すということらしい。時あたかも、米中の政権幹部による長時間の会談が憶測を呼んでいる時期でもある。ある日突然両国が歩み寄りをみせ、これまで米国と連携して強い対中外交を展開してきた日本が梯子を外されることはないか。
大使はどこ吹く風
9月21日に日本メディアが、米NBCテレビの報道として伝えたところでは、バイデン大統領の側近らがエマニュエル大使に「中国の習近平国家主席を嘲笑するようなSNSへの投稿をやめてほしい」と要請。「米中関係を修復する努力を損なう恐れがある」と説明したという。
大使の報道官はNBCの報道を否定しているともいうが、真相はどうあれ、対中関係の改善を急ぐバイデン政権が障害となりうる存在に対して神経質になっていることをうかがわせる。
ワシントンからの要請後も大使は「日本産海産物の輸入を停止した中国の漁船が日本の排他的経済水域で操業している」(9月22日、都内での講演)と改めて中国を批判し、少しも臆する様子はない。
処理水放出が始まって以来、大使は一貫して日本擁護、中国非難の立場をとってきた。8月31日には福島県相馬市を訪問、地元で水揚げされたスズキの刺身などを賞味、「福島の海は中国の原発が処理せずに排出している水より安全だ」などと辛らつに批判した。
秦剛前外相、李尚福国防相の消息が途絶えてからも、アガサ・クリスティの小説の題名をもじって「『そして誰もいなくなった』のようになっている」「軟禁された者のリストはさらに増えるようだ」などとX(旧ツイッター)への投稿をくりかえしていた。

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外交トップによるマラソン会談の直後
エマニュエル大使に対する、中国を刺激するSNSの自粛要請は、9月16、17日に地中海・マルタで行われた王毅政治局員兼外相とジューク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)との会談直後だった。
王毅氏は中国外交のトップ、サリバン氏はバイデン大統領の信頼厚い側近。両氏の会談は12時間にも及んだという。
ホワイトハウスは会談について「率直で実質的かつ建設的」と説明しているが、2日間12時間も膝をつき合わせれば、多くの問題で核心にわたる話し合いを行うことは十分可能だったろう。
これとは別に9月22日、米財務省は米中間で経済、金融に関する作業部会をそれぞれ正式に発足させると発表。「マクロ経済、金融に関して継続的、構造的な経路とする」のが目的で、7月にイエレン財務長官が訪中した際に設置で合意していた。
8月にはレモンド商務長官も北京を訪問、貿易、投資に関する問題を話し合うワーキンググループ設置で合意した。
こうした一連の米中対話は、6月にブリンケン国務長官が中国を訪問し、習近平国家主席と会談したのを契機に一気に弾みがついた。
ブリンケン長官は「米中関係を安定させる必要性では双方一致している」と説明、関係改善への動きが進むことを示唆していた。