注目ポイント
豊作に感謝し、月を愛でる。旧暦8月15日の中秋節は、日本でいう「中秋の名月」「お月見」「十五夜」のこと。この日に見える月は普段より丸く「一年で最も美しい月」と言われ、丸いものに家族円満の意味合いがあり縁起が良いとされる台湾では、家族だけでなく親戚や友人と集まり、一緒に食事をすることが一般的だ。
今月29日は中秋節にあたる。春節、端午節に並ぶ三大節句の一つで、祝日の少ない台湾では連休になるこの時期が待ち遠しいという人も少なくない。9月に入ってから世間は中秋節一色、今年は日本へ旅行に行くという話もよく耳にする。日本ではインバウンドが順調に回復しているようだが、台湾で花屋を営んでいる筆者からすると、台湾人の日本旅行への意欲も相当高まっていると感じる。
台湾人にとってとても大切なイベント
中秋節には月餅と呼ばれる饅頭を贈り合う習慣があるのは、よく知られているだろう。コンビニ、カフェチェーンと、どこでも販売していて、有名菓子店ともなれば9月上旬から毎日行列ができ、筆者の店の近くにある「佳德」という名店も連日、警察が出動するほど長蛇の列ができている。
行列の中には台湾人だけでなく、日本人や韓国人の姿も大勢見かける。パイナップルケーキも扱っているから、おそらく観光客はそちらが目当てだと思うが、実際に並んだ方に聞くと購入するまで2時間以上もかかったそうだ。
月餅以外にも、中秋節には文旦や梨などの果物を贈る人も多い。文旦は台湾で「柚子」と呼んだりするが、日本の柚子とは異なる大ぶりな瓢箪型で、中秋節を代表する柑橘系の果物だ。食感はグレープフルーツに似ていて、とてもさっぱりした味わいで甘味も強い。筆者もこの時期になるとお客さんや市場関係者から大量にいただくが、一人ではとても食べきれないため近所に配って歩いている。

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こうして、中秋節には贈答が頻繁に繰り返され、家族団らんや、日頃あまり連絡を取らない人と久しぶりの再会を楽しんだりする。街中は普段より活気にあふれ、台湾人にとって中秋節がとても大切なイベントなのだとしみじみ感じる。
近年はバーベキューが“中秋節最大のイベント”として定着した。コストコや大型スーパーではバーベキューセットが山のように積まれ、肉やエビなどの魚介類が飛ぶように売れていく。路上の至るところでバーベキューが始まり、香ばしい匂いが漂ってくる。
玄関先で家族がワイワイとコンロを囲み、近所の人も参加している光景は、どこか昔の日本を見ているようで懐かしいものを感じる。地縁や血縁が薄れている現代の日本ではあり得ない光景かもしれない。台湾で暮らしていて、日本の地域コミュニティの希薄さを突きつけられる瞬間でもある。

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台湾の中秋節で日本の秋を感じる
月餅や文旦は皆小さい時から食べ慣れていて、古い風習に飽きている台湾人も実は少なくない。そうした人は花を贈り物に選んだりする。