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2023-09-24 ライフ

台湾美術の光  次の世代へ託す文化の灯

注目ポイント

この2年間、台湾美術界は大変な盛り上がりを見せている。半世紀近く姿を消していた大理石の裸体像「甘露水」が再び出現し、国宝に指定された。「不朽の青春-台湾美術再発見」「光-台湾文化の啓蒙と自覚」「人・間-陳澄波と画廊」「台湾土・自由水-黄土水芸術生命の復活」など、台湾の先駆的な芸術家に関する展覧会も次々と開催された。また美術史学者・顔娟英と蔡家丘の共同企画で、23名の研究者による共著『台湾美術両百年』が出版され、質が高く売れ行きもよい同著は、一般の人々に台湾美術への扉を開くことになった。これまで長きにわたり、台湾の美術界にこうした活気などなかったと、誰が想像できるだろうか。

文・蘇俐穎  写真・林旻萱 翻訳・松本 幸子

中央研究院歴史言語研究所の非常勤研究員である顔娟英は台湾美術史研究では先駆的な存在だ。彼女は、2020年に北師美術館で開催された「不朽の青春」展がパンデミックのさなかに空前の成功を収めたことを振り返る。

まるで暗いトンネルの先にかすかな光が見えたようだった。なにしろ1987年に彼女がアメリカから帰国し、中国美術や西洋美術といった主流を離れ、台湾美術という不人気な分野に足を踏み入れる決心をした頃は、「研究に値する美術作品など台湾にあるのか」というのが学術界の一般的な考えだったからだ。

今やライトを浴びて

だが現在これらの作品を見る人々のまなざしは異なっている。日本の帝展で賞賛を浴びた「甘露水」は、西洋美術伝統の女神の形を取りながら、丸みのある東洋人の体形や台湾らしいモチーフも加え、神聖さすら感じさせる。今や商品デザインにも使われる郭雪湖の「南街殷賑」は、日本統治時代の大稲埕の栄華を再現したものだ。「蓮池」は明け方に花開くハスを繊細に捉えているが、林玉山はこの作品を完成させるために、嘉義の牛頭山の蓮池のほとりに一泊し、夜明けとともにスケッチを始めたという。また陳澄波の「嘉義遊園地」は、ダイナミックで生命力にあふれた作品だ。

整った展示スペースで解説付きの作品を見ると、かつては時代遅れとされていたこれらの作品が、まるで埃を振り払ってライトを浴びたように、すばらしい味わいと気品を感じさせる。そして「なぜ今まで気づかなかったのだろう」という疑問がわいてくるのだ。

中華民国重要古物」指定の「清流」は、陳澄波が生前に家宝とするよう言い残した作品だ。西洋的な油彩技法と東洋的な視点の揺らぎがキャンバスの中で融合している。(財団法人陳澄波文化基金会提供)

戦後初期の対立と和解

あまりにも長い間、台湾美術の知名度は低く、ゴッホやモネの名は言えても、台湾の芸術家の名は知らないという人が多かった。「我々は自分の故郷に居ながら何も知らない外国人のようです」と国立台湾美術館の副研究員で、キュレーターでもある林振茎は残念そうに言う。

台湾美術が長い間日の目を見ることがなかったのは、歴史や政権交代が関係している。日本統治時代に芽生えた近代美術がまだ育ち始めたばかりのころ、国民政府が台湾に来たことで双方の文化が衝突し、記憶の断裂が起こった。

例えば、日本統治時代に「日本画」と呼ばれたジャンルは、戦後には水墨画の「国画」に改められた。エスニックが違えば、言語、文化、美意識も全く異なる。統治者からの圧力と、北京の故宮から来た重厚な国宝の数々に押される形で、多くの芸術家(主に日本統治時代に生まれた人)は、「言葉を失った世代」として活躍の舞台を失ってしまった。

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