注目ポイント
台湾で今年5月にネット公開された短編ドキュメンタリー映画「擒慾女王」(英題「Queenie Classy Lusty Baby」、監督・朱詩倩、20分)は、夜の世界の女性の生きざまや自己愛などがテーマだ。同作の主人公といえる女性、シエナ(Siena)さんは、台湾のネット配信ドラマ「華燈初上 -夜を生きる女たち-」の演技指導者としても注目されており、実際に台北市の歓楽街・林森北路で日本式スナック「Bar Nine」を経営するオーナーママでもある。公開直前に台北市内で行われた試写会であいさつしたシエナさんに、彼女の人生や、台湾における日本式スナック文化についてインタビューした。
夜の女王シエナ
タイトルの「擒慾女王」とは、「欲望をかなえる女王」という意味。台北の夜の蝶として一時代を築いたシエナさんの生きざまを映像に記録した朱詩倩監督は、良い女性、悪い女性というレッテルを取り払い、一個の女性としての生き方、自己愛を探求することを本作のテーマとした。

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シエナさんは、一昨年Netflixで話題になった、1980年代の台北の歓楽街を舞台にした台湾ドラマ「華燈初上 -夜を生きる女たちー」の演技指導者であり、日本スタイルの飲食店が集まる台北市の歓楽街・林森北路でラウンジ「BAR NINE」を経営するオーナー「ママさん」(媽媽桑)でもある。さらには、2016年から台湾人を対象にした林森北路のツアーガイドであり、近年は肉体の生理的欲求を探求する「擒慾實驗所」(「欲望をかなえる研究室」)の創設者でもある。
台北駅にも近い林森北路は、日本統治時代は「大正町」と呼ばれた内地人(日本人)街で、戦後は、日本の下請け産業などが台湾経済を押し上げた1970年代~1990年代をピークに、商社マンなど日本人駐在員の飲み屋街として隆盛を誇った。
実際の住居表示とは別に、「五条通り」「六条通り」と通りごとに日本式の呼称があてられており、今もなお日本式の呼び名の方が主流であることからシエナさんは台湾人向けの林森北路ガイドを「条通ツアー」と呼んでいる。
中国の台頭や日本経済の低迷など、国際社会の経済状況の変化で昨今台湾では日本人駐在員の数が減少し、林森北路も日本人駐在員向けの飲み屋街から、台北にいながらにして日本情緒を楽しもうという台湾人客が主流の街に変貌しつつあるのだ。
「擒慾女王」の公開と同時期の今年5月23日、シエナさんは初の自伝「華燈初上, 人生永遠不怕夜黑: 條通女王席耶娜的真情人生」(華燈初上 、夜の闇を永遠に恐れぬ人生:条通の女王シエナの人生」)(発行・時報周刊)を著し、自分の半生をふり返った。台湾人読者は、日本人駐在員向けの縁遠い存在だった、林森北路の日本式スナックバーやラウンジ文化の内幕を垣間見ることができるのだ。

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個人商売で借金背負い夜の世界へ
シエナさんは明るく元気でユーモアがあり、口を開けば機知に富んだ言葉が次々に飛び出す。男性には、いや同性にとっても魅力的な性格の持ち主である。
シエナさんは著書「華燈初上」の中で、「13歳からレストランでアルバイトをしてきた」と語っている。中高生時代から、職場でのコミュニケーションの手段は言語だけではないことにも気づき、アイコンタクトや、表情による意思疎通が往々にして言語よりもはるかに重要であることに気づいた、というのだ。そのころからシエナさんは、人の話を真摯によく聞く姿勢が自分の強みであることにも気づいた。こちらから発する言語以上に、相手の発する言葉をよく理解し、共感する力こそが重要だということに気づいたのだ。