注目ポイント
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記のロシア訪問で焦点となる4年ぶりのプーチン大統領との首脳会談。ともに米主導の国際秩序に反対し、西側諸国を翻弄する。緊張する国際情勢において、両国の結束がもたらすものは、北朝鮮の最先端兵器保有か、北朝鮮がロシアの対日米韓の“防波堤”になることか、あるいはウクライナ侵攻に関する情報を北朝鮮が共有し、将来の南北武力統一の教訓とすることなのか。2019年4月にはセレモニーに過ぎなかった露朝首脳会談が4年の時を経て変貌し、今回、二つの強権体制の相互補完関係が強化される契機となるかもしれない。
提案
北朝鮮とロシアは米国を中心とする西側諸国による強力な制裁を受け、ともに厳しい経済状況にある。他方、北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻を早い段階から支持してきた。その姿勢は一貫しており、プーチン大統領は金総書記を最も緊密なパートナーと考えているに違いない。
プーチン大統領は北朝鮮の「祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利70周年」(7月27日)を祝う節目の軍事パレードに、腹心のショイグ国防相が率いる軍事代表団を送り込んだ。韓国・国家情報院によると、その際に朝露両国間で(1)ロシアは北朝鮮からの砲弾・ミサイルの供給や、中国を交えた海上合同演習を含む大きな枠組みの軍事協力を提案した(2)北朝鮮は、老朽化した兵器の扱いに関する技術的知見や米欧製兵器の性能に関する分析の共有を求めた――などのやり取りがあったという。
北朝鮮はこれまで、大国間の紛争に巻き込まれることを警戒してきた。ロシアのウクライナ侵攻を政治的には支持してきたものの、自国が紛争に巻き込まれて被害を受けるような事態を避けるため、軍事面での協力には消極的だった。
だが、北朝鮮には、自国を取り巻く安全保障環境が大きく変化したという感覚があり、消極姿勢を続けるためのその前提が揺らいでいるという認識があるようだ。

兵器
北朝鮮の最重要課題は言うまでもなく、金正恩体制の維持だ。
東アジア情勢の緊張に対処するための日米韓3カ国の防衛協力は「前例のないレベルに達している」(バイデン米大統領)とされ、米韓は合同軍事演習を高度化させて、北朝鮮を圧迫している。特に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は北朝鮮に対して強硬姿勢を続け、日米との連携を深めている。こうした自国を取り巻く厳しい安全保障環境を見せつけられ、北朝鮮側が焦っているのは間違いない。
この状況に対応するために、北朝鮮は自前の軍事偵察能力の保有を渇望している。だが、最近2回連続で軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したことから、衛星保有はおろか「運搬ロケット打ち上げ能力」=「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の通常角度での発射能力」も疑問視される事態になり、金総書記の威信は大きく傷ついた。
10月の3回目打ち上げを宣言したものの、もはや失敗は許されない。そこですがりつきたいのがロシアだ。2021年からの5カ年計画に盛り込んだ原子力潜水艦の保有も含め、北朝鮮にとって、隣の軍事大国の技術・装備は非常に魅力的に映っている。