2023-09-08 ライフ

台湾の精神性反映した日本ゆかりのマジョリカタイル文化  牡丹柄人気に生産追いつかず

注目ポイント

台湾でもあまり見かけなくなっているタイルだが、レトロなものが好きな方であれば、「マジョリカタイル」と聞くとピンとくるのではないだろうか。伝統的な手法で作られたタイルは台湾中部から南部の歴史ある家屋ではまだ現存しており、花柄やカラフルなデザインが多く、そのレトロ感を魅力に感じているアーティストや若者が少なくない。そして、実は日本ととても深い関係がある。

マジョリカタイルを堪能するなら、嘉義にある「台灣花磚博物館」を訪れてみるのがおすすめだ。ここはマジョリカタイルの展示および修復・回収事業を行っていて、館内にはタイル以外にも日本の大正時代を思わせるアンティークな家具や黒電話、照明やバスタブなども飾られており、台湾にいるとは到底思えないレトロな雰囲気にあふれている。

台灣花磚博物館の展示(写真:筆者提供)

 

職人気質を感じられる貴重なレリーフタイル

というのも、何を隠そうマジョリカタイルはかつての日本で流行していたタイル。19世紀半ばのイギリスに登場し、明治期の日本へ持ち込まれるとその美しい発色や意匠から貴族や富裕層の間で瞬く間に人気を博した。

明治後期に日本国内の生産が始まると、昭和初期の輸出最盛期にはアジアや中南米、オーストラリア、アフリカなどにも輸出され、日本統治時代の台湾では富裕層の象徴として主に住宅に取り入れられたという。タイルといえば日本では浴室のような水回りに使われるイメージが強いが、台湾では玄関や屋根など外からでも見えるところの装飾に使われることが多く、雨風で劣化してしまい現存するものは大変貴重だそうだ。

大きさは10cmから15cmくらいのものが多く、30cmを超えるものも存在する。大正から昭和期に日本で製造されたマジョリカタイルは釉薬がふんだんに使われ、レリーフの凹凸によって一色の釉薬でも焼成後に色の濃淡がはっきりと現れる。こうしたところに日本人の職人気質を感じることができる。

台灣花磚博物館の展示。現在でも台湾中部から南部にはマジョリカタイルの意匠を残した家が残っている(写真:筆者提供)

モチーフの多くは花で、特に牡丹のデザインが当時は人気だった。赤やピンク色の牡丹のふっくらとした花びらは多くの台湾人を魅了し、需要に生産が追いつかず、各地の工場で同様の型を使った大量生産に踏み切ったため、現存する牡丹のタイルは同じデザインのものが多いのだという。

また、牡丹以外には菊をモチーフにしたタイルも多く見られる。菊は台湾でも日本の天皇の象徴としてよく知られていた。多種多様な日本原産の花々は当時の台湾でとても珍しく、美しい印象を持たれていたようで、多くの富裕層から気に入られていたそうだ。ヨーロッパ産のタイルに描かれているチューリップやガーベラなども珍しく映ったようだが、日本産の花はまた違う雰囲気を醸し出していたのだろう。

菊をモチーフにしたマジョリカタイル(写真:筆者提供)

 

台湾では「福が来る」縁起物に

マジョリカタイルは近年の研究で輸出先のニーズに合わせたものが日本で生産されていたことが明らかになったように、台湾ではヨーロッパや日本とは異なる発展を遂げ、主なモチーフはフルーツになった。

中でも人気は「桃」「パイナップル」「バナナ」の三つ。例えば桃は、昔から邪気を払い不老長寿を与える果物として親しまれてきた。「西遊記」に登場する孫悟空も九千年に一度しか実らない桃を食べて不老長寿になったと言われている。

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