2023-09-07 経済

半導体「シリコンの盾」強化に踏み出す台湾 海外進出求められ陥るジレンマ【近藤伸二の一筆入魂】

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注目ポイント

世界の半導体サプライチェーン(供給網)で重要な役割を果たしている台湾が、最先端品の現地生産を拡充し、これまで手薄だった製造装置の自前生産にも力を入れるなど、半導体産業の一層の強化に踏み出している。半導体を敵の攻撃から守る「盾」に見立て、経済と連動させて台湾の防衛を堅固にしようとする「シリコンの盾(シリコンシールド)」と呼ばれる安全保障戦略が背景にある。一方で、日米欧などからは海外進出を強く求められ、応じざるを得ない現実もあり、台湾はジレンマに陥っている。

台湾の技術者は新竹に集約

半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は8月初め、台湾南部の高雄市に建設中の新工場で、回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を生産する計画を明らかにした。

2ナノ品は人口知能(AI)やスマートフォンなどに使用される次世代の半導体で、まだ量産に成功した企業はない。同社は北部の新竹県の工場で2025年に2ナノ品の量産を始める予定で、高雄は2カ所目の生産拠点となる。中部の台中市でも、3カ所目の2ナノ工場の用地取得を進めている。

TSMCは2022年暮れ、現行の最先端品となる3ナノ品の量産体制に入り、今のところ、全量を台湾で生産している。海外では、米南西部のアリゾナ州に建設中の工場で2026年の量産開始を目指しているが、当面は台湾で独占的に生産する状況が続く。

また、TSMCは7月下旬、約900億台湾ドル(約4100億円)を投じて、半導体の「先端パッケージング」の新工場を中部の苗栗県に建設する計画を公表した。複数の半導体を同じパッケージに収め、一つの半導体であるかのように動かすもので、高性能半導体の生産に欠かせない工程だ。2024年に着工し、2027年に稼働するスケジュールを描いている。6月には、苗栗県の別の工業団地に「先端パッケージング」の工場を新設したばかりで、この分野で意欲的な投資が目立つ。

さらに、7月末には、新竹県の本社近くに同社初の研究開発センターを開設した。このセンターでは、2ナノメートル以降の超先端半導体や新材料などの研究開発を行う。同社はこれまで、台湾各地にある工場に計7000人以上の技術者を分散させ、製造部門と連携して開発に当たってきたが、技術者をセンターに集約することで、開発の効率性を上げるのが狙いだという。

© SCMP via Reuters Connect

TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナ州工場。1,100エーカー以上の敷地がある=2023年1月10日

 

海外工場展開で「空洞化」に懸念も

このような主要拠点を台湾に集中させて整備する動きは、台湾当局の意向に沿ったものだ。TSMCが2022年12月、アリゾナ工場で製造する半導体を従来予定していた5ナノから4ナノにバージョンアップし、3ナノの新工場も追加で造る計画を発表した際、台湾では「台湾が空洞化し、優位性を失うのではないか」(『中時新聞網』2022年12月8日)など、「脱台湾化」を心配する声が高まった。

台湾当局とTSMCは火消しに追われ、劉徳音TSMC会長は2022年暮れに台南市の工場で開催した3ナノ品の量産開始式典で「今後も台湾で投資していく」と宣言し、王美花経済部長(経済相)も「『脱台湾化』の問題など存在しない」(『経済日報』2022年12月30日)と強調した。官民あげて、台湾が先端半導体の生産拠点であることを明確にすることで、中国の台湾侵攻に対する抑止力にしたいとの思いがにじみ出ていた。

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