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中国政府は国内で諜報活動がまん延しているとして、国民を総動員してスパイ取り締まりに対応するよう呼び掛けている。そんな中国について米紙ニューヨーク・タイムズは今週、最悪の経済不況に加え西側との緊張が高まる中、習近平国家主席は独裁体制に脅威となるもの全てを取り除くことに執着しているようだと伝えた。
中国政府は、多国籍企業に潜入したり、SNSを利用したり、学生を取り込むなどと、さまざまな方法を使い、いたるところで中国の弱体化をもくろむ勢力が横行している現状を国民に理解させようとしているという。
大学では、獣医学部などの学部であっても教員には国家機密保護に関するコースの受講を義務付けている。天津市東部の幼稚園では、中国の反スパイ法を「理解し、活用する」方法を職員に教えるための会議を開いた。
中国で強い権限を持つ国家安全部は通常、秘密警察や諜報機関を監督する〝陰の組織〟だが、国営メディアによると「国民の関与を深める取り組みの一環」として、初のSNSを開設した。最初の投稿は、スパイ行為に対して「社会全体で取り組む」ことだった。また、「大衆の参加が日常化されるべき」だとし、中国共産党は、国への脅威と認識されるものに警戒するよう国民に呼びかけているという。
米紙ニューヨーク・タイムズは、中国経済が低迷するなか、習近平国家主席は、国家安全保障と中国共産党による一党独裁体制への脅威を取り除くことに執着しているようだと指摘。習氏は5月、中国国家安全委員会に対し、「最悪で極端な想定に備えなければならない」とした上で、当局に「リアルタイム監視を強化」し「実戦に備える」よう求めた。
同紙は、習氏が国家の指導者として就任して以来、中国は不動産開発大手の相次ぐ破綻など最悪の経済状況に直面し、危機感がさらに高まっているのかもしれないと説明。深刻さを増す経済だけでなく、米国を中心とする西側諸国との関係もますます緊迫していると伝えた。
一方、7月には秦剛外相や中国人民解放軍のトップ2人が突然解任されたことを含め、権力の最高層における説明のない人事は、習氏が自身への脅威を恐れていることを示唆しているとの見方もある。
さらに同月には改正・反スパイ法が施行された。改正法は、すでに広範囲に及んでいる諜報活動のあいまいな定義をさらに拡大。通報者には百万円単位の報奨金を提供するなど、なりふり構わずの監視社会へと向かっている。
実際、中国当局は今年初め、スパイ罪で米国人に終身刑を言い渡し、日本の外交官と会食した中国人編集者を逮捕したことも発表した。
米ニューヨーク大学で中国現代史を専門とするチェン・ジャン教授は、スパイ対策を推し進める背景には、「習政権が直面する正当性へのチャレンジと危機感を反映している」と言う。
その上で、国民総動員の呼びかけは、毛沢東が自らの権力を強化するために展開した広範なキャンペーンを思い起こさせると指摘した。それは、中国のトップ指導者たちが教師や隣人、さらには家族さえも〝反革命者〟として通報するよう国民を扇動し、10年にわたった混乱と流血の文化大革命のことだ。