2023-09-02 観光

さらば総統のワンタンスープ!花蓮の老舗「戴記扁食」90余年の歴史に幕【検証!台湾グルメ世界最強説】⑤

© 「戴記扁食」のワンタンスープ=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

注目ポイント

台湾東部・花蓮市で長年地元市民や観光客らに愛されてきたワンタンスープの店「戴記扁食」が従業員の高齢化を理由に8月31日で閉店した。台湾の第3代総統(1978~88)を務めた故蒋経国(1910~88)遺愛の老舗として内外で知られていただけに、営業最終日まで、別れを惜しむファンらの長い行列が店舗を取り囲んだ。

台湾東部を代表する景勝地・タロコ渓谷を訪れたことがあるなら、その往路か復路に立ち寄った花蓮市中心部で、「戴記」もしくは「液香」の「扁食」(ワンタンスープ)を口にした人は多いだろう。

「戴記扁食」の入り口。別れを惜しむ客の長い行列が店を囲んでいた=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

もとは福州地方の屋台料理。店のウェブサイトなどによると、花蓮のワンタンスープ二大老舗といえる両店の創業者は実は同一人物(戴阿火)であり、90年以上の歴史を誇るという。

創業者の死後、この屋台料理を創業者の姉弟がファミリービジネスとして継承をはかったが、経営方針の違いで元来の店(液香)を弟が継承。一方渡米した姉が米国で「戴記」を成功させ、花蓮支店開業で故郷に錦を飾った。ちなみに花蓮のもうひとつの扁食店「花蓮香扁食」はこの姉と離婚した元夫の開業だというから複雑だ。

「戴記扁食」店内1階。2階も合わせると80人以上が座れそうな広さだった=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

「戴記」は3代目戴玉麗さんの時代になって、蒋経国総統が花蓮を訪問するたびに毎回立ち寄る店として知られるようになり、8月31日の閉店まで店内には往時の写真などが飾られていた。

「戴記扁食」店内に飾れられていた蒋経国総統訪問時の写真=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

扁食以外にメニューはなく、1椀80台湾元(370円)。新鮮で臭みのない豚肉の餡がすけてしまいそうな薄皮のワンタンが、薬味のセロリ、油葱酥(紅葱頭=台湾エシャロット=を揚げたもの)とともにあっさり系のスープに泳ぎ、ハフハフしながら口にふくむと、つるりとした食感があとをひく。シンプルだがストレートで濃厚なうま味がひきたち、コショウや酢、しょう油、ラー油などで味変も楽しめる。男性なら2~3椀程度は軽くたいらげられるほど。

シンプルだがつるりとした食感と深いうま味が特徴の「戴記扁食」のワンタンスープ=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

4代目はコロナ禍のなか、ワンタンを冷凍し宅配などに活路を求めたが20~30年勤めあげた従業員らは高齢化し、リタイアする年齢に達したため、閉店を決めた。今後は同店近くの液香扁食や米国の本店など系列店の風味が蒋経国総統遺愛のワンタンの名残を伝えていくことになりそうだ。

さながら戦場と化した昼時の「戴記扁食」の厨房=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

最後の週末となった26日は午前10時の開店から夏休みの家族連れらが長い行列をつくって同店を囲み、しびれをきらして店内での飲食をあきらめ、テイクアウト用の列に並びなおすなどの姿も。約1時間待って店内の席にたどりついた客らは、猛暑にもかかわらず熱々のワンタンスープをほおばり、笑顔。

熟練従業員の手で手際よく作られる「戴記扁食」のワンタン=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

台北からわざ車で訪れたという50代の男性は「蒋経国時代も遠くなったとしみじみ思う。台北で待つ家族のため、2椀テイクアウトも頼んだ」と名残を惜しんでいた。

「戴記扁食」店内に飾られていた蒋経国総統訪問時の写真。本土化。民主化への橋渡し期だった70~80年代の台湾も遠くなった=2023年8月26日、花蓮市(吉村剛史撮影)

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