2023-09-04 政治・国際

「台湾有事」の主戦場は宇宙と海底か 通信インフラこそ軍事の最重要分野【門間理良の寸鉄】

© Shutterstock 光ケーブル製造機械

注目ポイント

「台湾有事」における通信インフラ確保の重要性が浮上している。一つは通信衛星を利用したもの、もう一つが海底ケーブルである。後者に関しては今年2月、離島・馬祖列島で台湾本島に通じる通信用海底ケーブル2本が1週間のうちに相次いで切断。1カ月以上通信障害が続く事例が発生した。沖縄近海の光ファイバー海底ケーブルから中国製盗聴装置が発見されていたと在沖縄米軍向け雑誌が指摘していた問題も、本誌6月17日報道を機に日本国内でも広く知られ、情報・通信設備保全の重要性が一気に注目を浴びた。防衛研究所中国研究室長や地域研究部長を歴任した門間理良氏が東アジア安全保障の最前線を総括する。

スターリンクに不信感を抱く台湾

衛星を介した通信は現代ではなくてはならないコミュニケーション手段で、軍事分野でも最重要分野の一角を占めている。そのため、軍事技術の発展は通信衛星をはじめとする各種人工衛星の生存性を脅かすようにもなっている。

中国は2007年に低軌道を周回していた自国の古い気象衛星を対衛星(ASAT)兵器で破壊し、軌道上での衛星破壊能力を実証した。中国人民解放軍はそれにとどまらず、電子的妨害によるGPSや衛星通信に対するジャミングで地上基地局とのリンクを切断する能力、衛星のセンサー部に対するレーザーなどを用いた「目くらまし」攻撃能力なども備えていると考えられているが、地上基地局に対して偽情報を送りこむ能力も開発している可能性はある。

このような通信衛星に対する攻撃に対抗する有力な手段として、スペースX社(イーロン・マスク氏が2002年に設立)が運用するスターリンクの利用がある。

スターリンクは高度約550キロメートル程度の低軌道で地球を周回する多数の衛星を使って通信網を構築した衛星通信サービスである。スターリンク専用のアンテナを設置さえすれば、山間部や離島など光ファイバーの敷設が難しい地域をふくめて地球上のほぼ全地域に衛星インターネットアクセスを提供できる非常に便利なシステムである。

衛星が多数周回しているので、その内のいくつかを攻撃されても、その他の多くの衛星がカバーできる利点がある。自衛隊も2023年3月からサービスの利用を開始している。利用の背景には、中露が衛星攻撃能力を強化していることを踏まえ、通信機能を強化する狙いとされている。

それに対して台湾はスターリンクの利用に慎重姿勢をとっている。

台湾周辺海域の海底ケーブル敷設状況 TeleGeography,“Submarine Cable Map”より

マスク氏は中国とのビジネスを非常に重視し、本年5月末に北京・上海を訪れて丁薛祥筆頭副総理・秦剛外交部長・王文濤商務部長・陳吉寧上海市委書記ら政府・中国共産党の高官と相次いで会談した。マスク氏が最高経営責任者を務める米電気自動車大手テスラにとって、中国本土は売上高の25%を占める大事な市場になっているためである。

マスク氏の中国傾斜ぶりは以前から指摘されているところではあるが、台湾有事の際に中国からの要請を受けたマスク氏が台湾にスターリンクを使用させない決定を下す危険性を台湾当局は感じ取っているのであろう。

そのためもあってか、台湾は宇宙政策強化に乗り出し、2023年に国家宇宙センターを科技部傘下の行政法人行政法人に変更し、前年の予算から4倍増の年間100億元(約444億円)とする見通しだ。また、国家科学及技術委員会(旧科学技術庁に相当)は、「ビヨンド5G(いわゆる6G)」と呼ばれる次世代の通信規格に対応する低軌道通信衛星6機の開発計画を推進している。うち2機は政府が開発し、残り4機は民間企業に技術移転して開発を促し、衛星システム統合企業の育成につなげる予定である。

© 台湾・国家宇宙センターHPより

台湾の国家宇宙センター(台湾・新竹市)
⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい