2023-08-31 政治・国際

台湾2024総統選のカギは「棄保」その方程式と3つの可能性とは【小笠原欣幸の視線】

© Photo Credit: 中央社

注目ポイント

来年1月13日投開票の台湾・総統選に、与党・民主進歩党(民進党)からは同党主席で副総統の頼清徳氏(63)、最大野党・中国国民党(国民党)からは新北市長の侯友宜氏(66)、第三勢力・台湾民衆党(民衆党)からは同党主席で前台北市長の柯文哲氏(64)が名乗りをあげていたが、新たに鴻海(ホンハイ)精密工業創業者で前会長の郭台銘氏(72)が無所属での出馬を表明した。乱立なら票の分散で与党有利となるため今後の野党陣営の調整などが注目されるが先行き不透明だ。台湾の政治・選挙に関する権威、小笠原欣幸氏は、「3人の争いに集約されるなら、棄保(きほ)というキーワードが鍵をにぎる」と指摘する。

8月の民意(世論)調査は、1位を走る頼清徳氏の支持率が上昇し、2位に対しリードを広げる展開となった。投票日までまだ4か月もあり、選挙情勢はすぐにでも変わりえる。事実ここにきて郭台銘氏が加わり選挙戦が一段とにぎやかになりそうだ。とはいえ、頼清徳氏優勢の構図を直接覆す可能性があるのは野党連合と「棄保」(選挙で共倒れを避けるため、本命を棄て、政治姿勢が比較的許容でき、勝てる見込みがより大きい候補者に票を投じる行動)だ。

郭台銘氏は出馬を表明しただけで、正式の候補者になるのは11月の立候補登録を待たなければならない。実際に郭氏が無所属で立候補するには、前回総統選の有権者総数の1.5%にあたる約29万人の署名を今後集めることなども必要であり、野党陣営間の調整などともにその先行きは依然不透明だ。本稿では先に、当初の3人の候補者の間での棄保についてどのような可能性があるのか検討しておきたい。(以下敬称略)

© AFP via Getty Images

台北市内で会見し、2023年総統選に無所属で出馬する意向を示した鴻海精密工業創業者で前会長の郭台銘氏=2023年8月28日

 

首位の得票率の計算

頼清徳氏の支持率は8月に上昇したが、それまでは35%前後であまり動かなかった。35%というのは棄保を考えるうえで重要な基準になる。デジタルメディア・美麗島の「7月国政民調」では、頼清徳35.1%、柯文哲24.0%、侯友宜19.9%、不明20.9%であった(「不明」は投票しないを含む。以下同じ)。これを事例として、2位の候補が棄保で勝つ可能性を検討する。誰が2位になるのかわからないので、以下、A候補、B候補、C候補と表記して検討する。

不明が21%の状態でA候補の支持率が35%だと得票率はどれくらいになるだろうか?

単純化すると、不明のうちの一定の比率xが支持率に上乗せされるので、支持率+x=得票率となる。xは不明の中に隠れている支持率である。

4年前、前回総統選直前に実施された美麗島の「2019年12月国政民調」の支持率は、蔡英文(民進党)48.2%、韓国瑜(国民党)20.3%、宋楚瑜(親民党)10.3%、不明21.3%であった。実際の得票率は、蔡英文57.1%、韓国瑜38.6%、宋楚瑜4.3%であった。蔡英文の支持率は48.2%、得票率は57.1%であるから、xは8.9%となる。この8.9%は不明21.3%のうちの約4割の比率になる。これは調査で示されている蔡英文の支持率に比較的近い。

韓国瑜の場合は、不明の中の隠れた支持率に加えて宋楚瑜の支持率からも奪っているので計算は複雑になるが、不明21.3%のうち12.4%(不明のうちの約6割)が隠れた韓国瑜支持であったと見ることができる。つまり、不明の中に隠れた蔡英文と韓国瑜の支持は4対6であった。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい