注目ポイント
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に対し、中国、韓国などから懸念の声が上がるかたわらで、ある場所での「汚染水」がどうなっているのかも気がかりだ。それは北朝鮮の核関連施設での水や土壌の管理。日本海や黄海に影響はないのだろうか。そして、放射性廃棄物による汚染の度合いを評価する手段は、果たしてあるのだろうか。
国際査察団の不在
「放射性物質が多量に含まれた汚染水の海洋放流が地球の生態環境を破壊し、人類の生存を脅かす反人倫的な行為であることは誰も否定できない」
北朝鮮外務省報道官は8月24日付で発表した談話で、日本の処理水放出をこう批判し、放出の即時撤回を要求した。
海洋放出計画について、国際原子力機関(IAEA)が7月4日に国際的な安全基準に合致しているとした包括報告書を公表した際にも、北朝鮮は国土環境保護省対外事業局長の談話(同月9日付)で「想像するのもぞっとする核汚染水放流計画を積極的に庇護、助長しているIAEA」と揶揄したうえ、「日本がIAEAの職員らに100万ユーロの資金を提供し、IAEAの最終報告書の草案を日本政府が事前に入手して修正した」というデマを取り上げたうえ「理由なきことではない」と、独自の主張を展開した。
海洋放出をめぐり、日本国内でも議論があるのは確かだ。その安全性にかかわる情報について、日本政府が丁寧に説明し、国内の理解を求めるべく十分に努力してきたのか、疑問の声も聞こえる。
風評被害などを生じさせないための取り組みが求められているのは疑いない。福島第一原発の周辺海域や魚については、東京電力や環境省、水産庁、原子力規制委員会がそれぞれモニタリングを実施している。IAEAも海洋放出が国際的な安全基準を満たしているか、今後数十年にわたり検証していくとしている。
翻って、北朝鮮はどうか。
北朝鮮はかつて6カ国協議(参加国=北朝鮮と日米中韓露)での合意に基づき、寧辺(ニョンビョン)核施設の稼働停止・封印に取り組んでいた。その過程で、北朝鮮が2009年4月に運搬ロケット「銀河(ウナ)2号」で人工衛星「光明星(クァンミョンソン)2号」を打ち上げた。たとえ人工衛星打ち上げと主張しても、北朝鮮による弾道ミサイル技術を使った発射は安保理決議違反となるため、安保理は議長声明を採択して北朝鮮を非難した。

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これに北朝鮮は態度を硬化させ、「自衛的核抑制力」の強化を宣言し、寧辺にいるIAEA監視団を追放した。
それ以来、北朝鮮にはその核活動をモニタリングする国際査察団がいない。IAEAは衛星写真などを使って北朝鮮の動きを分析しているにすぎない。
言い換えれば、北朝鮮の核関連施設は、国際社会の検証を受けず、無防備な状態に置かれているわけだ。
豊渓里周辺での被ばく
北朝鮮の核関連施設で最も心配なのは、咸鏡北道(ハムギョンプクド)吉州郡(キルジュグン)豊渓里(プンゲリ)にある地下核実験場だ。北朝鮮による過去6回の核実験のすべてで、ここが使われている。6回目(2017年9月)では、広島に投下された原爆の10倍超に相当する爆発が起き、マグニチュード6.1の人工地震が発生している。小規模な揺れが複数回観測され、土砂崩れなども起きている。