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台湾では先祖や無縁仏の霊があの世から帰ってくる鬼月の季節を迎え、折り返し地点となる「中元節」もまもなく。日本の花屋は、夏といえばお中元やお盆で大忙しだが、フワラーギフトや仏花の需要が少ない台湾の花屋は閑散期。しかし、唯一この時期に忙しい花屋も存在する……。
日本ではお盆が終わり、子どもたちの夏休みも残りわずか。一方、台湾は日本のお盆と似た「鬼月」の真っ只中だ。
台湾では旧暦の7月を鬼月と呼ぶ。旧暦7月1日(今年は8月16日)になると、あの世とこの世をつなぐ「鬼門」が開き、先祖や「好兄弟」と呼ばれる無縁仏の霊が舞い戻ってくると信じられている。
先祖の霊だけならまだ良いのだが、悪鬼(悪霊。台湾では霊を「鬼」と呼ぶ)もこの世にやってくるとあって、台湾人の警戒心は強い。海や川に近寄らないようにしたり、起業や新規事業の立ち上げを避けたりと、鬼月の1カ月間はいまだにさまざまな禁忌(タブー)が存在する。
そんな鬼月の折り返し地点である旧暦7月15日(今年は8月30日)は「中元節」と呼ばれ、鬼門がもっとも大きく開くとされる。この日、台湾は祝日で、自宅近くのお寺や路上の臨時会場で行われる「普渡(中元普渡)」という儀式に参加する人が多い。たくさんの食べ物やあの世で使える紙銭(冥銭)をお供えして、先祖の霊や好兄弟をもてなし、家内の安全を願うのだ。

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日本の夏、花屋はお中元にお盆にと大忙し
「中元」というと日本には「お中元」があるが、中元節もお中元も、古代中国の道教の教えで「上元(旧暦1月15日)」「中元(同7月15日)」「下元(同10月15日)」に神様へお供え物をする行事が仏教の盂蘭盆会と結び付き、さらに土着の民間信仰と習合して広まったという。
日本でお中元として、お世話になった方への感謝を伝えて下半期の健康や安全を願う贈り物をするようになったのは江戸時代から。今ではハムやビールといった贈答品が定番だが、花を贈る人も大勢いる。
私が日本で働いていた花屋では、お中元は重要な季節行事だった。夏場は切花があまり日持ちしないため蘭や観葉植物を贈る人が多く、中でも胡蝶蘭は飛ぶように売れていた。企業間のお中元のやり取りのために、さまざまな会社へ毎日配送していたことを思い出す。
お中元が終わりお盆が近づくと、花屋の主力商品は墓参りで使う「仏花」になる。菊を使った和風のものがポピュラーだが最近は洋花の仏花も人気で、いまではスーパーやコンビニでも仏花が手に入るため、花屋もデザインより価格やボリュームで競争しなければいけない時代になった。

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台湾の花屋は閑散期、でも唯一忙しい花屋がある
台湾の中元節は日本のお盆と似ていても、花屋が置かれる状況はまったく異なる。なぜなら、中元節は普渡が最も重要な行事で、日本のように個人で墓参りに行く習慣はあまりなく、お供え物の花の需要がないからだ。むしろ8月は旧暦の七夕(今年は8月22日)に贈呈用の花が圧倒的に売れるため、中元節付近は七夕で疲れ切った花屋が休んだりもするくらいだ。