2023-08-18 政治・国際

処理水放出への対応で東アジアが二分、台湾と韓国では与野党対立激化も【近藤伸二の一筆入魂】

© GettyImages 福島第一原発を訪れた国際原子力機関のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長(中央)=2023年7月5日, 双葉町

注目ポイント

東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出をめぐり、中国と香港が強く反発して対抗措置に乗り出したのに対し、台湾と韓国は一定の理解を示し、東アジア各国・地域の対応が二分している。現在の対日関係が反映された形になっているが、台湾と韓国でも野党は反対しており、与野党対立が激化している。日本政府は8月末にも海洋放出を始める予定とされるが、実施されれば、域内の混乱は避けられない見通しだ。

中国、香港はすでに検査を強化

中国政府は7月7日、日本から輸入する食品に対する検査を強化すると発表した。その後、各税関は抜き取りではなく全量を対象とするなど、厳格な検査を続けている。鮮魚は税関で留め置かれて鮮度が落ちるため、日本からの輸入は事実上ストップした状態になっている。

7月12日には香港政府も、処理水の海洋放出が行われれば、福島をはじめ、海に面していない埼玉や長野を含む10都県からの水産品の輸入を禁止する考えを表明した。実際には、すでに検査の頻度が増しており、一部で配送の遅れも出ているという。

香港では8月17日から21日まで、政府系機関の香港貿易発展局が主催する食品見本市「フード・エキスポ」が開かれ、日本貿易振興機構(ジェトロ)がジャパンパビリオンを設置している。せっかくの舞台で、世界に向けて日本の水産品を売り込むのに、香港政府の措置が水を差す格好となっている。

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東京電力福島第一原子力発電所には高度液体処理システム(ALPS)で処理された放射性水を放出する施設の配管が設置された=2023年7月21日、福島県双葉町

 

一線画す台湾、総統選ひかえ争点化も

農林水産省によると、2023年1~6月の日本の水産品輸出額は2057億円で、前年同期比14・1%増と大幅に伸びた。輸出先の国・地域別シェアでは、1位は香港(516億円)で25%、2位は中国(456億円)で22%を占めている。香港と中国向けを合わせると、ほぼ半分の47%となり、厳しい通関手続きが長引けば、日本の水産業者が受ける打撃は深刻さを増す。

一方、台湾は7%(152億円)で4位の大口輸出先の一つだが、中国や香港のような対抗措置を取る構えは見せていない。7月4日に国際原子力機関(IAEA)が処理水の放出計画は「国際的な安全基準に合致している」との報告書を公表したのを受け、台湾・外交部(外務省)が記者会見したが、日本側に国際基準や規定に従って放出作業をするよう求めていくと述べるにとどめた。

また、台湾当局は原子能委員会(原子力規制委員会)が各省庁を取り込んで海洋水監視システムを構築し、これまでに3回日本に視察団を派遣するなど、対策に当たっている。同委員会は、処理水は放出から4年後に台湾の周辺海域に到達するものの、そのころにはトリチウム濃度は計測器で測定できる限度を下回り、台湾への影響は極めて低いとの分析結果を発表している。

こうした台湾当局の方針に、漁民や環境団体などは強く反発し、処理水放出への反対運動を繰り広げている。最大野党の中国国民党も「(与党の)民主進歩党は反原発を党是としているのに、蔡英文政権はなぜ日本政府に異議を唱えないのか。周辺国・地域の漁民の生活を守るよう日本政府に要求すべきだ」(謝衣鳳・立法委員=国会議員)などと与党批判の声を上げている。

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