2023-08-24 観光

台湾を暮らすように旅する 滞在するだけで癒やされる台南の古民家

注目ポイント

日本の小京都にも似た佇まいの台湾の古都・台南。古い建物をリノベーションして使い続けるお店や民宿が多い中で、日本統治時代に建てられた古民家ゲストハウス・謝宅を紹介します。10年通っても飽きない、まるで暮らすように旅ができる謝宅の魅力とは。

初めて来るのに懐かしい 人生の原体験で巡り会ったかのような街

アジアを旅していて、自分にしっくりくる街というのは、何故だか瞬間的にわかる。道がくねくねと曲がっていて、路地が入り組んでいる。車道の幅が狭い。自動車よりもバイクや路面電車が優先される街だと、その地域の生活の息遣いが感じられて、なおさらうれしい。

30代後半、会社の仕事も家庭も「もう限界かな」と思うほど、しんどかったことがあった。ある程度区切りがついたところで、自分のご褒美のために台湾縦断一人旅をした。行き慣れている台北から、初めて訪れる台中、そして台南へと南下する。台南に着いた日の夕方、街を歩いているだけで、「ああ、いいな。私、この街にどうにかして住めないかな」と思った。古い建物を大切に使っているお宅が多く、とにかく落ち着く。都会育ちの私は帰省する故郷がない。ならば台南を心の故郷にしよう。そう思うことで、毎日を頑張れそうな気がした。

台南の路地。植木を大事に育てているお家が多い=2022年11月

そうこうするうちに、移住を考える間もなく、LCCをはじめローコストの航空便がバンバン飛び始めた。台南は美食の街で、物価も比較的安く、滞在費が抑えられる。土日に有給休暇を1日足すなどして、多い時は年に3回は台南を訪れた。台南をひいきにしてから早13年。当初からお世話になっている古民家ゲストハウス・謝宅での暮らしを紹介する。

台南市の謝宅前で。2022年11月に滞在した際の1枚

謝宅のオーナー・謝文侃(通称:小五)さんは、台南民宿ブームの火付け役。オーストラリア留学を経て台湾に戻り、台北の外資系企業で働いたのちに、Uターンして地元・台南で2008年から民宿経営を始めた。経営に乗り出す前、謝さんは日本の名だたるホテルや旅館を泊まり歩き、サービスやおもてなしについて考えたそうだ。彼のもとには、石川県の旅館・加賀屋で働いていた日本語の達者なスタッフもいる。謝宅の古民家は名旅館に違わず、どの棟も掃除が細部まで行き届いて、暮らしていて本当に気持ちがいい。

謝さんがお掃除がてら黄色い蘭を生けて、日本語でメッセージを書いてくれた。「日本語はイマイチだったけど気持ちはすごく伝わった」と伝えると、「Google翻訳じゃダメだったか〜」と苦笑い=2018年4月

コロナ禍収束後の謝宅は、一棟貸しする戸建てや原宿の同潤会アパートにも似た古いアパートの部屋など、計6戸で運営中。このうち4戸が通常の民宿、2戸が長期賃貸用となっている。

台南に10年以上通っていると、コロナ禍で大打撃を受けながらも6軒も維持できているのは、並大抵のことではないと実感する。というのも、謝宅以外にも台南を代表する古民家ゲストハウスはいくつもあったが、Airbnbなどの台頭もあり、コロナの直前から徐々に廃業するところが増えていたからだ。

「同潤会アパート」風な謝宅のオーディオルーム。使わなくなったタンスの引き出しを本棚に再利用している。読書とお酒が進む落ち着く空間=2018年4月

実は私、10年以上ここを定宿にしているのに、いまだに全ての棟や部屋を制覇しきれていない。理由は謝宅自体が人気なのと、一人旅で空いている棟、部屋となると限られてしまうからだ。謝宅のFacebookメッセンジャーから日本語で予約し、当日はスタッフさんと「●●交差点の●●前で」と落ち合う場所を決めて、鍵を渡される。当日までどの棟、どの部屋に泊まるのかがほとんどわからないので、毎回ミステリーツアーの様相を呈している。

こちらも「同潤会アパート」風味な謝宅のバスルーム。日本統治時代に流行ったといわれる手の込んだタイルで装飾されたバスタブ。毎日お風呂に入るのが楽しい=2018年4月

居心地がいいのは私だけではなかった

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