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フィリピンが実効支配する南シナ海・南沙諸島のセカンド・トーマス礁(タガログ語でアユンギン礁)に、意図的に座礁させてある軍艦の撤去を迫る中国が、新たな揺さぶりをかけてきた。中国の王毅外相は先週末、フィリピンに対し、この問題を解決するため中国と〝協力〟するよう要請したという。
中国国営新華社通信は先週末、中国の王毅外相がフィリピンに対し、「南シナ海の緊張を緩和する効果的な方法を模索するため」、中国と〝協力〟するよう求めたと報じた。
フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある南シナ海・南沙諸島のセカンド・トーマス礁(タガログ語でアユンギン礁)をめぐっては、フィリピンは自国の実効支配を明確にするため、1999年に第2次世界大戦時代の軍艦「シエラ・マドレ」を意図的に同礁に座礁させ、軍事基地化。フィリピン軍の少数の部隊が交代で同艦に常駐している。
ところが、南シナ海のほぼ全域の領有権を主張する中国は今月5日、フィリピン軍の座礁軍艦に常駐する兵員に対する補給活動に向かった輸送船に、中国海警局の船が放水攻撃を仕掛けるという実力行使を行い、一触即発の事態を生んだ。輸送船はフィリピン沿岸警備隊の巡視船2隻の警護を受けながら向かっていた。
座礁軍艦への補給活動をめぐっては、2021年にも輸送船が中国側から放水を受けたほか、今年6月には警護していたフィリピンの巡視船が中国海警局の船に危険な距離まで接近されたり、進路妨害を受けたりと中国側から嫌がらせを受ける事例が相次いでいる。
新華社通信によると、王氏は8日、シンガポールとマレーシアを訪問した際、中国はフィリピンとの相違について、2国間対話を通じて解決する用意があることを繰り返し表明。また、フィリピン側が過去の合意を遵守するよう求めていると報じた。
この合意とは、座礁軍艦の撤去をフィリピン側が約束したとするもので、マルコス比大統領は9日、「フィリピンが自国の領域から艦船を撤去するとの取り決めや合意は承知していない」と強調。「もしそんな合意があったとしても、今すぐ破棄する」と言い切った。
そのセカンド・トーマス礁の領有権について国際仲裁裁判所は16年7月、すでに中国側の言い分を退けている。
国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、セカンド・トーマス礁がある南沙諸島海域を含む、ほぼ全ての南シナ海の領有権を主張している中国が、独自に境界線を引いた「九段線」は国際法上の根拠がないとし、中国の主張を全面的に否定する判断を示した。だが、中国はその判断を無視している。
中国は13年ごろから南沙諸島にある暗礁を埋め立て、人工島の造成を急ピッチで進め、実効支配を強調してきた。ただ、その人工島がある海域は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシアのEEZと重複する海域でもある。