2023-08-15 政治・国際

日本の対台湾政策変更うかがわせる麻生氏の「戦う覚悟」発言に戸惑いも【樫山幸夫の一刀両断】

© 総統府で蔡英文総統(右)と会談した麻生太郎自民党副総裁=2023年8月8日、台北市

注目ポイント

「戦う覚悟」という自民党の麻生副総裁の発言が物議をかもしている。中国を念頭に置いた台湾での講演、真意は不明だが、「政府内部を含め、調整した」(鈴木馨祐政調副会長)との説明が事実なら、これまでの政府方針からの変更につながる。ウクライナ問題に忙殺される米国に代わって、アジア太平洋での中国抑止の主役を担おうという構想も垣間見られる。台湾側世論の一部には戸惑いもみられ、この麻生発言が空回りに終わる可能性もある。

日本国内の親中派政治家のほとんどが引退するなどして表舞台から姿を消したことも、そうした動きを促進した。

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台湾を訪れ、総統府でスピーチするナンシー・ペロシ米下院議長(当時)=2022年8月3日、台湾の総統府

 

意味大きい断交後初の副総裁訪台

自民党からは2022年12月、萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長がそれぞれ台北を訪れ、蔡英文総統らと会談した。

麻生氏の訪台は、それに続くもので、自民党副総裁としては、1972年の日中国交正常化にともなう台湾との断交をうけての特使、椎名悦三郎氏以来、実に半世紀余の大物訪台だ。

萩生田氏、世耕氏の訪台は、「ポスト安倍」をうかがう立場から台湾側要人とのパイプを築きたいという個人的な思惑はあろうが、麻生氏が名を連ねたとなると、政治的意味合いは増してくる。

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李登輝元総統の墓参をした麻生太郎氏(中央)。李元総統の次女、李安妮氏(右)らと=2023年8月7日、新北市

 

米国とあうんの呼吸か

岸田内閣は21年10月の発足以来、中国への対抗策として、フィリピン、ベトナム、タイなどASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、中国が影響力を強めている太平洋島しょ国との関係を強化してきた。

とくに島しょ国は台湾有事で米中が相まみえる事態になった場合、重要な戦略的拠点となるだけに米中両国がそれぞれ関係強化をはかろうとつばぜり合いを演じている。

ASEAN、島しょ国に加え、台湾との連携を強化できれば、日本がこの地域でリーダーシップをとることが可能になり、ウクライナ問題への対応で忙殺される米国の負担軽減を実現し、日米同盟深化への期待も広がる。

23年1月の岸田首相訪米の際の共同声明は「中国の国際秩序と整合しない行動」を念頭に、「ASEANの中心的な役割を支持、太平洋島しょ国との拡大しつつある連携をより強固にする」とうたわれた。

岸田首相とバイデン大統領との間で、どのような話し合いが行われたのかは詳らかではないが、米側から何らかの具体的要請がなされたか、あうんの呼吸で協調された可能性もある。

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岸田首相はホワイトハウスに到着し、バイデン大統領とインド太平洋地域における日米の戦略的関係について会談した=2023年1月13日、ワシントンD.C.

 

日本の思惑通りに事が進むか

しかし、日本政府の思惑通りに事が運ぶかどうか。

来年の台湾総統選の結果次第では、中台関係、台湾と日本、米国との関係は大きく変化するだろう。

ASEAN各国にしても、中国との関係が冷えきってしまうことを避けたい意向が強く、日本と歩調をあわせて中国と対峙することは期待できないかもしれない。

麻生氏の言う「防衛力の行使」が何を意味するかはさておくとして、経済はじめ日本の国力全体が衰退している現状では、外交を含め日本にどの程度の実行力があるかという疑問も残る。

 

歓迎、当惑相半ばする台湾世論

もっとも大きいのは台湾世論の反応だ。

台湾の人たちは、あくまで現状維持を望んでいる。「台湾独立」にも、中国との統一にも反対、「現在のまま」を望む人たちが約80%にものぼっている。

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