2023-08-15 政治・国際

日本の対台湾政策変更うかがわせる麻生氏の「戦う覚悟」発言に戸惑いも【樫山幸夫の一刀両断】

© 総統府で蔡英文総統(右)と会談した麻生太郎自民党副総裁=2023年8月8日、台北市

注目ポイント

「戦う覚悟」という自民党の麻生副総裁の発言が物議をかもしている。中国を念頭に置いた台湾での講演、真意は不明だが、「政府内部を含め、調整した」(鈴木馨祐政調副会長)との説明が事実なら、これまでの政府方針からの変更につながる。ウクライナ問題に忙殺される米国に代わって、アジア太平洋での中国抑止の主役を担おうという構想も垣間見られる。台湾側世論の一部には戸惑いもみられ、この麻生発言が空回りに終わる可能性もある。

政府と気脈通じた発言か

麻生太郎自民党副総裁は8月7日から9日まで、台湾を訪問、蔡英文総統らと会談した。

台北市内で8日に行った講演では中国を念頭に、「いまほど日本、台湾、アメリカなどに、抑止力の覚悟が求められている時代はない。戦う覚悟だ」、「台湾のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止になる」などと述べた。

中国は早速これに反発し、外務省報道官は、「『ひとつの中国』原則及び中日間の4つの基本文書への重大な違反であり、国際関係の基本に対する重大な蹂躙だ。日本側に対して厳正な申し入れを行った」と強硬にコメントした。

中国側の抗議は予想通りだが、麻生発言の真意は判然としない。

「防衛力使用」「戦う覚悟」とは何をさすのか。中国との戦争を辞さないという意味ではもちろんなく、日本の安全保障に大きな影響を与える台湾有事を手をこまねいて傍観することは許されない、という決意を示す意図だったようだ。

© JIJI Press/AFP via Getty Images

総統府で蔡英文総統(右)と会談した麻生太郎自民党副総裁=2023年8月8日、台北市

麻生発言を受けて松野官房長官は翌日の記者会見で、「議員、政党の活動に政府としてコメントすることは控えたい」と述べ、政府は無関係との姿勢を強調。「台湾をめぐる問題は対話により平和的に解決されることを期待する」と述べ、日本政府の従来の立場を繰り返した。

首相経験者、自民党副総裁とはいえ、麻生氏は現在、政府に籍はなく、一衆院議員の立場だ。

しかし、これほどの発言が政府側と連絡をとらずになされたとは考えにくい。麻生派に所属し、今回の麻生氏の訪台に同行した自民党の鈴木馨祐政調副会長は9日夜のBSフジ番組内で、麻生氏の「戦う覚悟」発言に関し「政府内部を含め、調整をした結果だ」と証言している。

 

中国の台頭、米台関係の緊密化が契機

従来、日本は中国側に付け込まれ非難の口実を与えることを恐れて、台湾との関係には臆病なほど慎重だった。

わかりやすい例をあげると、民主党政権時代の2012年、東日本大震災1周年の追悼式に出席した台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)の羅坤燦副代表(当時)を外交官席ではなく2階の一般席に着席させ、指名献花からもはずした。「多額の義援金を送ってくれた台湾に礼を失する冷遇だ」などと日本国内からも批判を浴び、当時の野田佳彦首相が参院予算委員会で遺憾の意を表明した経緯がある。

そうした状況は、近年の中国の急速な軍事大国化で大きく変化した。

アジアだけではなく、欧州でも対中警戒感感が広がり、巨額の武器供与、政府高官の台湾訪問を可能にした台湾旅行法の制定、22年夏のナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の訪問など米国の台湾重視があって、日本国内でも関係強化への機運が高まっていた。

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