2023-08-13 ライフ

人と森とのハーモニー 植樹を夢みる者 宋文生

注目ポイント

屏東県霧台郷に住むルカイ族の宋文生は、若くして公務員の職を棄て、年長者に伴われて山林に分け入り、台湾固有種の樹木の植樹に携わる道を選んだ。過去40年間、植樹、伝統的な狩猟場・山林を保護整備することに一心不乱に力を注いできた。宋とその家族の私心を捨てた正義感に満ちた感動的な物語に触れる時、私たちは、自らが身をおく環境を大切にする気持ちを奮い立たせ、不毛の土地を緑化させることで、世界を動かすこともできるという信念を固くするだろう。

 

苗木に「頑張れ」と声がけ

山林の復元は、苗木を植えるだけでなく、苗木が枯れたり蔓が絡まらないようにしたり、灌水したり、除草するなどの手入れをしなければならない。なかなかの重労働で、そのほとんどを宋文生が受け持っている。こうした作業で木の成長が早くなり、生存率が高くなるという。宋文生は、一日のうち7~8時間山林に滞在し、まるで子供に話しかけるように木々に話しかけている。植えたばかりの若木の若葉に手を添え「こうした枯れそうなやつには『頑張れ、頑張れ』と言ってやり、カイエンナッツなら、引き抜く前に、『悪しからず。ここは君のいる場所じゃない』と言うようにしています」と教えてくれた。

山の昼食は、ドレセドレセが宋のために準備したチキンナゲット、ねぎのお焼き、マントウで、少しごちそうだと卵を挟んだマントウか、肉ちまきになる。朝食店だけでは、とても家計を支えてはいけず、生活は厳しい。満足を知る者である宋は「私のマネージャー(妻)が作ってくれたものを私は食べていればいいのです」と呟いた。

故郷に戻って植樹を始めたばかりの数年間、宋文生は植樹を諦めて、山を下りて仕事を探すか幾度も悩んだ。しかし、最終的には山に残って大好きな植樹作業を続けた。宋はドレセドレセに視線を向け、感慨深く「私も食い扶持ぐらいは必要です。とにかく(結婚後)20年もこうしてやってこられたのは、家内がいたからです」と言う。

宋文生一族が山に植える苗木は、すべて自宅の庭で育てられる。(ドレセドレセ提供)

 

植樹は、神様のお導き

ここまでやって来て「無報酬」で植樹することが如何に大変かが実感できた。宋文生は、以前の自分は甘かったと語っていたが、現実には財源がない以上、若い世代に向かって、故郷に戻り植樹をしろと呼びかけるのは難しい。しかし、宋は、ユーモアたっぷりに続ける。「我々原住民には、三人の金メダリストがいます。2020年東京オリンピック重量挙げ金メダリストの郭婞淳、2021年柔道グランドスラム・アブダビの金メダリスト楊勇緯、そして、植樹金メダリストの私です」

「原住民族は、誰よりも山林のことを知っています。私もどれだけの木を植えるべきかはっきりわかっています。」と語る宋は、植樹と山林の保護を原住民のために専門化分業化させる構想を打ち出した。もし財源があれば、若者を故郷に引き戻すことも可能となる。父親が宋を山林に連れて行ったのと同じように、宋も若者を連れ回すことが可能となる。山林を感じ取り、大地に触れることで、初めて民族の言語や文化がひとりでに受け継がれていくのだ。しかし、宋は、固有種を植樹するという理念は共通でなければならないと強調してこう付け加えた。「さもなければ、一本が100万台湾元の値がつく牛樟(カシ)なぞ、頼まれても私は植えたくない」。

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