注目ポイント
コロナ禍3年余の停滞を取り戻すかのように国会議員らの夏の外遊が相次いでいる。中でも今年は台湾を訪問するケースが突出して目立つ。ロシアのウクライナ侵攻に加え、覇権主義的姿勢を強める中国など日本を取り巻く安全保障環境が、経済も含めて急激に変化したことを印象付けているが、同時に「安近短外遊」は諸物価高騰や円安で海外旅行が縁遠くなった国民感情を意識している面もあるようだ。
安近短でも「充実した視察可能」
ではこの時期なぜ多くの国会議員が台湾に訪れるのか。それには複数の理由が指摘されている。
ひとつにはコロナ禍で日台の通常の議員交流が3年以上も途絶えていたこと。また中国の覇権主義的姿勢の強化や、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻によって「台湾有事」という課題が改めて見直されていること。さらには半導体をはじめ台湾の技術力、経済力が注目されていること。コロナ禍が収束に向かい、インバウンドの面で台湾からの訪日観光客増加が期待されていることなどがあげられる。
もっと深読みすれば、ロシア・ウクライナ紛争の影響などで諸物価が高騰するなか、円安も重なり、庶民にとって海外旅行はコロナ禍前ほどに容易ではなくなっている。そんな折、沖縄の少し先の台湾への短期訪問なら、外遊先に選んでも「有権者、国民の反感を買いにくい」というのだ。
事実、自民党女性局のフランス研修では参加者がSNS上に公開した食事や名所前でのポーズ写真などに「まるで観光旅行」という批判が噴出した。
自民党の国会議員のひとりは、「台湾は安倍元首相が『台湾有事は日本有事』と語り、安全保障上その存在が改めて重要視されているだけでなく、経済分野では半導体などの先端技術が注目されている。しかもこのご時世、欧州や米国への外遊となれば、国民から冷たい視線を浴びがちだ。台湾なら日本の国会議員の対応にも慣れているし、2泊3日という短期でも充実した視察や会談ができて、魅力的なのだ」と明かした。
また、自民党の政務調査会調査役など務め、歴代総理にも仕えてきた政治評論家の田村重信氏も8月に入って訪台した。田村氏も国会議員の訪台ラッシュについては同様の見解で、「ロシア・ウクライナに関連し、次は台湾有事か、という危機感に満ちた報道がよく見られるし、安全保障上でも重視されているうえに半導体など高い技術力でも注目されている。台湾に行けば、『安全保障』と『経済』という重要な2項目への意識の高さがアピールできる。日華議員懇談会という台湾との関係を長く構築してきた超党派議員団もあって、台湾側は国会議員の受け入れに慣れているという安心材料もあるからね」と語る。
絶好のアピールの場…誤解の懸念も
国会議員の訪台に関しては、日台間の往来規制が緩和された昨年12月に早くも、自民党の萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長らが相次いで台湾を訪問し、「安倍氏の後継」イメージを強く打ち出すなどしていた。

© 台湾・総統府
安倍元首相の没後、安倍派(清和政策研究会)は新会長が決まらず、現状、萩生田氏と世耕氏を含む有力議員「5人衆」による集団指導体制となっている。