2023-08-04 政治・国際

中国・ロシア・北朝鮮“戦勝”軍事パレードで露呈した3カ国の微妙な距離感【西岡省二の羅針儀】

© 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」が7月29日付1面で報じた軍事パレードの様子。北朝鮮の金正恩総書記の向かって右側で、無表情に立つ中国の李鴻忠・全人代常任副委員長(労働新聞電子版より)

注目ポイント

中国とロシアは、北朝鮮の「祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利70周年」(7月27日)を祝うイベントに代表団を送り込み、日米韓3カ国の結束に対抗するかのように中露朝の友好関係を誇示した。ただ、軍事パレードなどの一連の祝賀行事をつぶさに分析すると、中露朝は、米国を脅威とみなす点で共通するものの、対決姿勢を鮮明にする露朝に対し、関係改善を試みる中国が微妙に距離を置くという構図が浮き彫りになっている。

さらに金総書記はショイグらを「武装装備展覧会」会場に案内している。そこにはICBM「火星18型」や「火星12型」のほか、米軍のハイテク機に似た無人機があった。金総書記は異例にも、それらの兵器を自ら紹介していた。

その後、代表団のために宴会を催し、北朝鮮軍の最高幹部らがもてなしている。強純男氏はその時の演説で、ウクライナ侵攻を念頭に「ロシア軍隊と人民の正義の戦い」を全面的に支持する、と述べている。

翌日にも金総書記がショイグ氏を党本部に招いている。同日には中国とロシア双方の代表団を招いて、金総書記の出席のもと、祖国解放戦争勝利70周年記念報告大会と軍事パレードを開催している。同日夜にも金総書記自らがロシア代表団のために宴会を催している。

© SOPA Images/LightRocket via Gett

平壌で7月27日に開催された北朝鮮の軍事パレードについて報じる韓国・聯合ニューステレビ

 

相互補完関係

ロシアがショイグ氏というハイレベルの人物を送り込んだのはひとえに、北朝鮮がウクライナ侵攻を強く支持しているため、ロシアにとって北朝鮮の戦略的価値が高くなっているためだ。

ウクライナ侵攻は消耗戦と化し、ロシアとしては先端兵器ではなく、砲弾と弾薬を調達する必要がある。一方の北朝鮮には弾薬を持続的に生産できる能力がある。しかも旧ソ連の基準に従っており、今のロシア軍の装備とも共通点が多い。

ロシアを取り巻く国際情勢を考えた場合、ロシアに砲弾・弾薬をためらいなく供給できるのは北朝鮮ぐらいだろう。今回のロシア代表団に、北朝鮮軍の装備や弾薬の価値を評価できる軍需担当者が含まれていたと、露メディアが伝えている。

また、休戦が実現した場合、ロシアは占領した地域の再建に迫られる。そこに必要な建設労働者を供給できるのも北朝鮮だ。

北朝鮮側もロシアからの多方面での支援を渇望している。

打ち上げに失敗した軍事偵察衛星について各種技術の再構築が急務であり、この点で、米国と競い合うロシアの軍事技術はやはり魅力的だ。ロシアの食糧やエネルギー、肥料などを熱望しているのは間違いない。

北朝鮮が砲弾生産能力や労働力を提供する見返りに、ロシアはその「魅力のあるもの」を差し出す。ロシアがハイレベル代表団を送り、北朝鮮側がこれを歓待した背景には、この「相互補完関係」があるといえる。

© SOPA Images/LightRocket via Gett

北朝鮮の運搬ロケット打ち上げについて報じる韓国・聯合ニューステレビ=2022年12月

 

支え合う二つの体制

北朝鮮での一連の行事を通して、中国とロシア・北朝鮮の間に温度差が感じられた。

露朝両国が軍事面での連携を誇示したのは、米国や韓国、さらには日本を圧迫する意図があるのは明らかだ。ショイグ氏の不意の平壌訪問は、先月中旬の尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領のウクライナ訪問と対比させて分析する向きもある。ウクライナ―韓国が緊密な関係を示せば、ロシア―北朝鮮も軍事協力強化で対抗するという意思表示にもみえる。

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