注目ポイント
中国とロシアは、北朝鮮の「祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利70周年」(7月27日)を祝うイベントに代表団を送り込み、日米韓3カ国の結束に対抗するかのように中露朝の友好関係を誇示した。ただ、軍事パレードなどの一連の祝賀行事をつぶさに分析すると、中露朝は、米国を脅威とみなす点で共通するものの、対決姿勢を鮮明にする露朝に対し、関係改善を試みる中国が微妙に距離を置くという構図が浮き彫りになっている。
中朝の神経戦
「戦勝」70周年という大きな節目に、朝鮮戦争(1950~53)をともに戦った「血盟」中国が北朝鮮での祝賀行事に、共産党最高指導部メンバーの政治局常務委員クラスを派遣する―北朝鮮はこう期待していた。同時にロシアからもプーチン大統領の側近を招き、中露との緊密な連携を誇示して日米韓を圧迫するという構図を描いていたようだ。
建国70周年(2018年9月9日)の軍事パレードでは、中国は当時の党序列3位で政治局常務委員の栗戦書(りつ・せんしょ)全国人民代表大会(全人代)常務委員長(国会議長)を送った。この時、北朝鮮は中国に配慮してか、核兵器搭載用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)をパレードに出さなかった。

ところが今回、中国が送ったのは、全人代常任委員長ではなく副委員長の李鴻忠(り・こうちゅう)氏。政治局常務委員ではなく格下の政治局委員だ。
中国はなぜランクを下げたのか―。
そもそも、中国は今回の行事を遠ざけていたような印象がある。その理由はやはり、中国が米国との関係をこれ以上、悪化させたくないと考えている点だ。米主導の対中包囲網により、中国は経済や安全保障上の制約を実感している。習近平(しゅう・きんぺい)政権としてもさらなる対米関係の悪化を望んでおらず、最近はハイレベル対話に応じるなど積極姿勢を見せている。緊張関係にある日本や韓国とも、3カ国持ち回りの日中韓首脳会談の年内開催に向けて動き出している。
この状況において中国は、ウクライナ侵攻を続けるロシアの代表団と一緒になって、国連安保理決議で発射が禁じられている北朝鮮のICBMが登場する軍事パレードを、最高指導部メンバーを送り込んで観覧させるというのは、やはりストレスがある。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記としても“これがうちの核兵器です。ご覧になりましたね?”と中露代表団に誇示して、「中露が北朝鮮の核保有を黙認した」という象徴的場面を演出するという思惑があるかもしれない。
そういう事情もあって、軍事パレードでICBMなど弾道ミサイルが登場して、幹部壇を中心に会場が盛り上がっているなかでも李鴻忠氏は身動きせず、無表情を通していた。
露骨な不満
こうした中国側の煮え切らない態度に北朝鮮は強い不満を抱き、公式報道を使って、それを露骨に表現した。
金総書記が中国代表団と会見したのは1回限り。後述するロシア代表団とは待遇面で大きな差をつけた。
李鴻忠氏が持参した習主席の親書も、金総書記は慶祝公演が開かれた柳京鄭周永体育館の控室のような場所で受け取っている。しかもロシアのショイグ国防相らが近くにいた。習主席の親書の中身も報じられていない。