注目ポイント
通俗的に続いてきたアメリカの台湾問題における曖昧戦略は、現場レベルで言えば一定の条件下での台湾独立保障に近しい内容だと解釈されつつあるのもまた事実ーーバイデン政権の台湾政策やウクライナへの対応、かたや中国国内の経済事情や世界へのプレゼンスの変化を踏まえると、台湾情勢には光が見えつつあるのか否や……。山本一郎さんの月イチ連載です。
本稿で連載をしていると、かつてビジネスでご一緒していた台湾の方や、台湾での仕事に従事されている日本人ビジネスマンから感想と共にさまざまなお考えやご注文を戴く機会が増えました。ありがたいことです。
中でも、台湾人は政治的な揺れ動きもある中で過去に台中の経済的蜜月でもあった三通政策時代を懐かしむ声もあれば、留学組を中心にビジネスの許容度や自由度を守るためにも台湾は民主主義を捨ててはならないとお考えの方も少なくないように見え、大国に挟まれ直接利害の対象となる緩衝地帯の小国家の誇りと悲哀のようなものを肌で感じることになります。
ただ、どのような立場にせよ割と共通しているのは、いまのままでは、いずれどうにもならなくなるだろうという、台湾世情における強い現状否定の気運、考え方です。いかなる方針であれ現状から何らかのアドオンが必要だと思うことについて、前向きに捉えれば常に前進する考えであり、それは政治でもビジネスでも社会政策でも改善の余地があるのであれば前例を厭わずどんどん手掛けていこうという意味にも捉えられます。
日本の立場で台湾の防衛政策を見るときには、どうしても日本の利害がまずあって、依存している台湾周辺の安全保障をどう実現するか、日本がいかなる貢献が可能かという話を組み立てていきます。NEO(非戦闘員退避)の話も直接の国交は持たないけど多くの邦人が台湾を訪れたり暮らしたりし、ビジネスの拠点を持ち資産を抱えている日本企業・ファンドの人命や財産の安全を図るか、そのためには台日関係の不可分な信頼を構築して協力体制をどう構築するんやという話に繋がっていきます。
例えば、直近ではサイバーセキュリティ関係では日に影に情報交換や実際の捜査でも台湾との関係を重視する事例が増えてきました。もちろん、日本の官憲が大手を振って台北詣でをしているというわけではありませんが、しかし、特定の国が台湾に対して行う工作の類は形を変えながらもほぼ同じ性質をもって日本にも投入されてきます。相互の情報交換が進めば最悪でもどちらかが構築した対処法でうまく連携することで、対オーストラリアや対カナダといった他国への攻撃を最小限に食い止められる方法が見つかるかもしれないのです。
これらの根幹となる変数としてはやはりアメリカにおける台湾政策の状況というものがあって、すべての台日関係、台湾周辺事態をどう考えるかにおいて一番重要なパラメータこそアメリカがどうするつもりなのかであり、ウクライナ問題やスーダン、中東地域などいろんなところに火薬庫があって戦力が分散することを怖れるアメリカの関心をいかに台湾方面につなぎ留めておくか、東アジアの安全保障の実現においてアメリカの関与を引き出せる状況しておくかは大変に重要な問題となるわけです。