2023-07-31 政治・国際

シャープ経営悪化で鴻海が突き付ける「経営陣交代」 試練迎えた日台企業提携【近藤伸二の一筆入魂】

© GettyImages シャープは台湾のホンハイ精密に買収されることに合意した= 2016年2月2日

注目ポイント

電機大手シャープの経営が悪化し、日台の企業提携が試練を迎えている。台湾の親会社、鴻海精密工業はシャープに改善計画を要請し、成果が上がらなければ、経営陣の交代も求める構えだ。ただ、主因である業績不振の液晶パネル工場運営会社の完全子会社化について、日本の株主からは鴻海側の意向ではないかとの疑念の声も出ており、日台協力のシンボルともてはやされたシャープの経営の先行きは不透明感を増している。

この買い戻しについて、シャープ側は「パネルの安定調達のため」と説明したが、SDPは赤字が続いていたため、シャープの株価は下落した。2022年6月に開かれた株主総会では、「株主に対する裏切りではないのか」と批判の声が上がった。SDPの減損損失計上が巨額赤字を招いた翌2023年6月の株主総会でも、出席した株主から「プロセスが不明朗。いったい誰が責任を取るのか」などと追及が相次いだ。

SDPを完全子会社化したのは、ちょうど戴体制から呉体制への移行期だったため、これを決めた責任者は戴氏なのか、呉氏なのか、わかりにくくなっている。呉氏は「外部の専門家の意見を求めたうえで、取締役会で決議した」と釈明したものの、戴氏は「家業が回復したなら、父親はどれだけ反対があっても、子供を取り戻したいと思うものだ」と話しており、戴氏の意向に沿ったものだったとの見方が強い。市場では「鴻海側が、業績が不安なSDPをシャープに押し付けた」とみる関係者もおり、こうした経緯に不信感を持つ株主も多いようだ。

 

薄れるシャープの重要性、政界視野に経営離れた郭氏

シャープの業績不振は、親会社の足も引っ張っている。鴻海の2023年1~3月期決算は、シャープの赤字転落に伴って173億台湾ドル(約780億円)の営業外損失を計上したこともあって、最終利益は前年同期比56.5%減の128億台湾ドルにとどまり、2四半期連続の減益となった。呉氏はSDPについて、「収益重視の生産に徹し、カテゴリーシフトを図る」と述べ、投資は最小にとどめて、赤字縮小に取り組む考えを表明している。

鴻海トップの劉揚偉会長は2023年7月、会長になって初めてシャープ本社や事業所を訪れ、幹部らに3カ月以内にシャープの業績改善に向けた計画を提出するよう求めた。鴻海から派遣された台湾人とシャープ生え抜きを中心とした日本人で構成されているシャープ経営陣に対して、鴻海側は5月の決算記者会見で、「必要に応じて、交代を要求する」と通告するなど、両者の関係もかつてのような蜜月状態から様変わりしている。

© AFP via Getty Images

セミコンインディア2023 (SemiconIndia 2023)開催中にインドのナレンドラ・モディ首相(真中)に挨拶する劉揚偉氏(左端)=2023年7月28日

その背景には、鴻海が今後、主力事業にしようと力を入れている電気自動車(EV)分野では、家電を軸とするシャープとの相乗効果はあまり見込めず、鴻海にとってシャープの重要性が薄れてきているという事情がある。シャープに強い思い入れがあった郭氏が、2020年の台湾・総統選出馬を目指すのを機に、鴻海の経営から離れたことも影響しているとみられる。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい